仕事中、そして違和感
話し合いはそれで決まり、三度目の荷物持ちで運ばれる。
急ぎの用であるために下る時よりも速く階段を登って行き、ものの十数分で前段上り切ってしまった。
五百は段数があったはずなのに息がほとんど上がっていない。
そんな調子で周りの目など気にも留めずに首長の部屋まで向かって行ったブライアンは、ようやくその歩を止めた。
ドアをノックし、声をかける。
「ブライアンです。首長、いますか?」
「ああ」
するとすぐに返事がされる。
一度眼を外に飛ばして時間を確認する。淡緑色の光を放つ月は頂上から少し西の方へと傾いている。
「(午前二から三時くらいか? こんな時間まで起きているとは……)」
ブライアンが言っていた通りに首長は仕事をしていたらしく、部屋に入れば首長は書類に視線を落としていた。
数十分前に見た時よりも机に乗る書類の量が三倍くらいに増えている。
「あまり無理はしないでくださいよ」
「……大丈夫ですよー。あと一刻もあれば終わりますしー」
「(……ん?)」
そんな彼女を心配して声をかけたブライアンに一瞬だけ視線を向けた首長は朗らかに笑って答える。
しかしその様子にどこか違和感を感じてしまう。
「それで、どうしたんですかー? こんな夜の遅い時か──」
「あー……首長」
突然の来訪の用件を尋ねようとしている首長の言葉を遮ってブライアンが俺を椅子に降ろす。
そしてかけられていた布が取られ、俺の姿を見た首長は口を開けたまま固まる。
「──ん、んっ……! こんな夜更けにどうしたブライアン」
しかしそれも数秒のことで、すぐに彼女は咳払いと共に取り繕う。
そこには俺の知っているキリッとした首長の姿があった。
「それに、囚人を連れ出したのはどういう了見かの説明をしてもらおう」
「……悪い。色々と、本当に、悪い……」
「……なんのことか分からないな。さっさと答えろ」
手に持っていた書類を置き、ことの発端者を睨んでいる。その視線を受け止めたブライアンは気まずそうに謝罪を述べた。
そんな二人の様子をただ眺めていることしか出来ないでいると、再び首長が俺の方に視線を向ける。
訝しんでいるのか直前まで睨んでいた目がさらに細まる。
「坊主からの提案で、首長と話がしたいとのことで連れて来ました」
「提案……?」
「はい。こちらに信用してもらう代わりに首長と話がしたいと要請を受けましたので、勝手ながら牢から連れ出しました」
「……なるほど」
彼女の視線に気を取られているとブライアンが少しだけ淡白な物言いで答えて行く。
今までの気の抜けた様子がないせいでこっちの方にも違和感を覚える。
「(上司の前だから仕方がないんだけど、敬語なのも違和感があるな……)」
先程までのしゃべり方の違いに失礼だが少しだけ不快感を感じる。
硬そうなイメージで触ってみたら、ブヨブヨとした触感だった様な気分だ。
「なら子供。私に用とはなんだ?」
ブライアンの意図を理解した首長が俺に矛先を向ける。
その様子にはブライアンに対する違和感を感じている様子はない。それだけ聞き慣れているのだろう。




