リスク、そして性格
「(動向を知られたくないから、わざわざ人払いして俺を牢から出した……?)」
理屈は分からないでもないが、リスクとリターンが見合っていないように感じる。
それだけキリサキを捕えるために躍起になっているとも取れるが、そのために王国騎士の副隊長が首長を利用してまで手を出す程の案件とも思えない。
それに家宅捜査時に指令を任されていたし、キリたちを医療監房に入れてくれた時も上長の立場でなければ出来そうにない。
なら、その立場を活かして部下を派遣するなりすれば良い。
「(そうすればわざわざこんなリスクを──)」
真剣な表情のブライアンを見て、その考えが途中で止まる。
「(……いや、この男なら自分でやろうとするか)」
一時間か二時間か。それ程長くはないが彼と過ごした時間の中で、俺はこの男の言動はずっと見てきた。
自分が利益を得られるはずの場面でそれをせず、時間がないだろうに空腹の子供のために食事を確保しに行き、頭まで下げる。
それにわざわざ話し合いのために降りて来るしな。
思えばそんな立場であるブライアンが、いつも自分で行動をしていた。
「(良いやつなのは確かだな)」
ただ、その人柄は買えるが、それで何も企んでいないと結論づけることは出来ない。
出来ないが……もしブライアンが言っている通り、キリサキを探しに出て行くつもりなら協力自体はしても問題ない。
今一番戦いたくないのは彼なのだから。
「すまないがそれは出来ない」
「……なんでか理由を訊きたいな」
「俺が脱獄した時にシュンポウって若い医師と戦ってな。ただでさえこの場所へ移送される時に襲われて怪我してたのがより酷くなったんだ。だから怪我のせいで今は能力が上手く使えないんだ」
「……」
嘘で揺さぶる。能力持ちのブライアンに怪我のせいで能力が使えない、なんてバレバレだろうけど。
それでも治療をしてもらえれば、万が一何か起きた時にも対処しやすくなる。
ダメでもブライアンとの取り引きの材料にする。後出しの要求で少し申し訳ないけど。
「分かった……治療用の治癒核もなんとか用意しよう」
「(え…… 良いのかよ)」
了承されると思っていなかったため面喰らう。
バレバレの要求だというのに少し考え込んで答えた彼には嫌がる様子も困った様子もない。
「(──ならもう少し欲張ってみても大丈夫じゃないのか……?)」
そんな彼の態度に甘えたくなる。
「それなら俺が持ってた袋を返してくれ。その中に治癒核が入ってるから」
「そりゃ無理や。悪いが諦めてくれ」
「間髪入れず断られるとは思わなかったよ。なんでだ?」
「あれは空間収納の魔道具だろ? 調べている時に武器や魔物の素材やらが見られたそうだ。押収品でもあるし、さすがにそないな物をおいそれと返すのは無理だ。だから諦めてくれ」
「(さすがにダメか)」
至極当然の理由で却下される。
宝物庫が手に入ればと考えていたが、許される内容ではなかった。ただ、物言いからしてブライアン自身は返してくれそうだったな。
それが彼の性格故なのか、俺が子供故なのか。理由は不明だが、治療を受けられそうでひとまず安心だ。
あけましておめでとうございます。
今年も頑張って書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。




