地下、そして約束
「なるほど。ただ、俺からはキングネスが関わっていなかったとしか言えないんだが?」
「そっちは最悪関わってなくても良いんだ。今重要なんは署内の看守がそいつらと関わってることの方が問題っていうことだからな」
「ああ。まあ、一応な」
疑われたままというのも嫌なので、指摘を受けるのを覚悟で事前に念押ししておく。
桐崎が何をしたかは好き勝手に盛られるのに対して、今の俺が何を言おうとあまり意味をなさない。
それでもブライアンの中に「キリサキはやっていないと坊主は思っている」と思わせることが出来る。
そうすれば事前に『キリサキを裏切れない』という前提意識を持たせられた、と思う。
そうなっていればこれから行われる取り引きのかけ合いで手が少しでも変わってくれるはず……
「それでその話ちゅうんが、前に言った首長と話がしたいっての準備が出来たんだ。これで俺らを信じてくれるか?」
「……は?」
しかしブライアンが言い放ったのは予想だにしていない物だった。
「──いやいやいや待て待て待て……!」
「ん? 自分で出した条件だぞ、忘れたのか?」
「いや、憶えてるけど……そうじゃなくてっ!」
視線を合わせるべくしゃがんでいるブライアンはキョトンとした顔を浮かべている。
その表情からは何かを企んでいる様子はない。しかし今はその顔の奥を探っている場合ではない。
「それを反故にしたのはそっちだろ?!」
「……はあ?」
こちらが文句を叫べば、今度はブライアンが理解しきれず、眉間にしわを寄せて声を上げる。
「待て、坊主。そりゃ、何かの間違いだ!」
「何がだ? その約束を首長には知らないって言われたぞっ?」
「……それは悪かった! 実はまだ条件のことは言ってないんだ……」
「はあぁっ?」
急に謝罪を述べてきたブライアンにさらに声を荒げてしまう。
「それで──」
言葉を続けようとした所で止まる。
これ以上語気を強めても意味はない。むしろ意識がブライアンに向いて『天眼』で周りを見ている利点が消えかねない。
一度深呼吸を挟んでから話し合いをした方が良いだろう。
「すぅ……ふぅ……そんなんでよく準備が出来たって言えたな」
「……首長も忙しいからな、この時間でも多分仕事しとるだろうから今なら坊主を連れてける」
「それなら道中で話しながら首長の所に連れて行けば早かっただろ」
「いや、その前にやるのことがあってな。坊主の眼でキリサキを探して欲しい」
「……それこそ首長の前でも良いんじゃないのか?」
「うーん……それも難しくてな。坊主が首長と話している間にキリサキの所に向かいたいのと、周りに俺の動向を知られたくなくてな」
「だからここと?」
「せや」
ブライアンは首肯する。




