返却、そして酒
幸いなのは空腹続きで胃が空っぽだったことだろう。出たのはほとんどが胃液だ。
「(あ、味が濃い……)」
普通の干し肉だと思って食べたら、とんでもない濃い味が押し寄せてきた。肉を食べたはずなのに、醤油と一緒に食べたみたいだった。
「大丈夫か坊主?! ほら、水だ」
「ごほぉっ、ありが──」
「良いから! とりあえず喉を潤してやれ」
急に吐き出した俺にパンを切っていたブライアンは手を止めて、水袋の栓を外して渡してくれる。
水を受け取り、ゆっくりと摂取する。
口の中で胃液と混ざり最悪のブレンド水で喉を潤す。
「吐く程ガッツくなよ」
「そんな、んんっ……じゃない」
「おぉー、だいぶ声が戻ってるな。はは、早ぇな」
「……ん! お陰で様でな」
水分補給が出来たから詰まらせずにしゃべれるようになってきたが、まだ少し引っかかりがある。
完治まではなだかかりそうだな。
「(それにしてもなんで吐いたんだ? ブライアンが言う程ガッツいて食べた訳でもないしな)」
確かに数日ぶりの食事ではあるが、我を忘れて食べたりはしない。そんなのは昔にやったから反省している。
だからさっきだって二、三口分しか食べていない。
「(毒か……?)」
そのため真っ先に思い至ったのが毒なのだが、『魔眼』にはそんな物は表記されていない。
それに毒が入っていたとしても俺には効かないし、第一そんな物が看守の食事に混ざっている意味も分からない。
ただそうなると他に原因なんて……
「──あ」
「どした?」
「あ、いや……吐いた理由が分がっだ、からさ」
「? なんだ、ガッツき過ぎて吐いたんじゃないのか?」
「違う違う。数日ぶりの食事だったから胃がビックリしたんだ」
「……あー、そういうことか」
少し考えて彼にも意味が通じたらしく、納得した顔を向けてくれる。
風邪で寝た切りだった人間がいきなりステーキを食べられないのと同じで、胃が弱っている状態なのだから干し肉なんて送れば返却されて当然だ。
「でもそれならどぉするんだ? 食べ物は今の干し肉と黒パンしかないぞ」
「うーん…………酒もあるからなんとかなるかな」
「さすがに坊主に酒を飲ますんはなぁ……」
「飲む訳じゃないって」
俺の発言にブライアンが渋い顔をする。
しかし彼が想像している使い方をする訳ではない。
渡された壺の中から小さな酒樽を手にする。
「悪いんだけど酒の樽、上部分だけ切ることって出来る? こう、スパッとさ」
「出来るが……そんなことしてどぉするつもりだ?」
「漬ける、いやこの場合は浸すが正解か」
「酒漬けか? ほな、やっぱり酒はダメだ」
考えていることを伝えたが上手く伝わらなかったらしく、せっかく渡した酒を没収されてしまった。
料理でも酒を使うことはザラにある。特に柔らかくするのではれば、今は酒を使うのがベストだろう。
「(大人としては正しいんだが、今は少しやり難いな)」
ブライアンの行動に不満を抱きつつも、頭の中でどう伝えるべきかを整理する。
「えっと、料理の下ごしらえなんかだと肉を柔らかくする手法で酒に漬け込んだりするんだ。そうすると筋繊維が解れて柔らかくなるんだよ」
「……料理は簡単な物以外あまりやらないが、本当か?」
「無事生きて外に出れた時にでも食べさせてやるよ」
果たして無事に出られるかが問題だけどな。
水分は軽く摂れたとはいえ、身体は限界に近いことには変わりないし、冤罪も残っている。
今のうちになるべく食事を摂って、体力だけでも戻しておきたい所だ。
「……分かった。坊主を信じたる」
「ありがとう」
彼はそれ以上何かを言うでもなく納得してくれた。




