隠し部屋、そして食料
ブライアンは軽く一息吐いてから倒れている二人の看守を一ヶ所にまとめ、手を払う。
「悪かったなぁ坊主。無事か?」
一仕事を終えた彼が笑いながらこちらへと歩いて来る。
その様子からは疲れは見えないが、どこか後悔しているようで少し表情が曇っているように見える。
「大丈ごほぉっ! えほぉっ! ……な訳──」
「あー、無理してしゃべらんで良え! 話しかけたのは悪かったな。にしてもだいぶ限界そうだな」
しゃべろうとすればカスカスの声が出るだけだったので慌ててブライアンが止めに入る。
看守の件は勝手に片づけられた訳だが……
「(これ程強い相手に駆け引きのみしかないのはだいぶ厳しいな)」
全快状態ならある程度は戦えただろうが今の状態では到底無理だ。しかも抗う術がないだけでなく、食事や仲間と駆け引きでこっちが不利になる物しかない。
唯一の救いは俺の『千里眼』で取引が出来る点だが、それもハリボテに近い。
突かれれば誤魔化すのは不可能になる。
例え「俺がお探しのキリサキです」と答えても子供の戯言として信じてもらえず、結果は何もしなかった時と変わらないだろう。
「(そもそも俺が知りたいよ。なんで子供になったのか)」
そう不貞腐れているとブライアンが俺を持ち上げる。
「交代が来る前に終わらせる必要があったが、なんとかなったな」
「無茶うほぉっ! するなら──」
「だからしゃべらんで良いって! ……確かこの辺りだったはずなんだけど」
先程と同じく荷物持ちで運ばれながら、彼は階段から見て左側にあった壁とほぼ同色の白土色の扉のノブに手をかける。
そうして「あったあった」と呟きながらブライアンが扉を開ける。
その先には牢内にある様な簡易的なベッドではなく、宿屋にありそうな少しだけ柔らかいベッドが一つと、その横には机がある。学習机くらいの大きさで、四枚の書類が置いてある。
部屋の広さも四畳くらいであり、家具のせいでかなり狭い。
「(安めの宿屋みたいだな)」
そんな感想を抱いてしまう。
しかし見た所食料を置いておけるようなスペースはない。置けるとすれば……
「(机の引き出しか)」
唯一物が入りそうな場所に目星を着けたのとほぼ同時に、ブライアンが答え合わせをしてくれる。
彼は俺をベッドに下ろし、引き出しを開ける。
そこには壺に入った干し肉と布に包まれた半分程の黒いパン、水の入った膨らんだ皮袋、そして酒が入った小さめの酒樽がある。
『魔眼』で中身を確認し終えるとブライアンがそれらをこっちに持って来る。
「ほら、食料だ。飯としては味気ないが、我慢してくれ」
「っ!?」
驚いたことにブライアンはその手にした食料を俺に渡してきた。
「……? どした? 腹減っとるんやろ?」
中々受け取ろうとしない俺に彼が不思議そうに見てくる。
「(いや……いやいやいやいや!! え? 取り引きは? キリサキを探すために俺の能力が必要だからそれとかを使ってやらせるんじゃないの?!)」
その当たり前と言わんばかりの態度にさすがに動揺する。
しかしブライアンはそれに手を伸ばそうとしても下げる様子もない。
結果、水と干し肉をもらえた。
「パンは切っとくからそっち先に食べぇ」
パンに布を解けば中から小さなナイフも出てきたためそれを手にしたブライアンが、黒パンをさらに三枚切りにカットする。
とりあえず言われた通りに水を飲む。そして口が潤った後に干し肉をかじる。
「──……うっ?!!」
硬い肉をがんばって咀嚼し、飲み込む。しかし数口食べた所でそれが一気に込み上げてきた。
せっかく飲み食いした物も含めて全部を吐き出してしまう。




