背負い投げ、そして持ち上げる
「クソッ! なんで当たんねえんだ!?」
「落ち着け! 魔力切れを狙うぞ」
一切攻撃が当たらず、憤慨するベネツとそれを相方が冷静に宥める。
「(魔力切れを狙う。確かに死角からの攻撃さえも当たらないのだから、彼らも能力を使われていると考えるか)」
ブライアンも多少息が上がっているが、表情には余裕がある。それがむしろ彼らをイラつかせている部分でもあるのだろうけど……
などと思っていたら、相方の方の動きが大きくなり、ベネツの射程内に僅かに入ってしまう。
それにより今まで静の動きに努めていたベネツの一撃が下からの大振りへと変わる。
「(あ、いや。あれはブライアンがわざとそうしたのか)」
動き続けている彼らの攻撃を冷静に捌きながら僅かな隙を生むために誘導させた。
戦い方が上手い。
ブライアンの立ち回りに関心していると、その大振りへと変わってしまった一撃を足で止め、その勢いのまま槍の先端を地面へと向ける。
「この……!」
ベネツが自身の武器からブライアンの足を退かせよう強く力を入れたタイミングで、彼はすぐにその足を退け、さらに下から蹴り上げる。
「今だっ」
ブライアンがベネツの方に身体を向けたのをチャンスと考え、相方が背後から突きを繰り出す。
しかしブライアンは身体を少しだけ捻り、相手の突きを脇の間を擦り抜けるようにして避ける。
「チッ──」
「反応が遅い!!」
攻撃が躱され舌打ちをしたのも束の間。
ブライアンは一喝と共に反対の手で剣を手繰り寄せ、看守の武器を奪おうとする。
しかしその程度で手を離すはずもなく、柄の前で止まる。
「へあ、はは……残念でしたね」
ブライアンの目論見を阻止出来たことで薄っすらと笑みを浮かべる看守。
が、逆にその体勢が仇となる。
「ふん!」
「なぁ?!」
ブライアンが脇を締め、剣が抜けないようにする。そしてその剣を上から押しながら、上半身を前へと倒す。
柔道の背負い投げを剣と剣の柄を利用して看守を前へと投げる。
「んぐふっ!!?」
「(なるほど。さっきのは剣を奪うのが目的じゃなくて、看守を自分に近づかせるためか)」
投げる際に武器のある方の脚を後ろに上げれば、当たることもない。
そうやって投げられた看守は受け身こそ取れたが、まだ起き上がるには少しかかる様子。
その一瞬の出来事に遅れて、槍が自由になったベネツが体勢の悪いブライアンを狙いに行く。しかしその動きは控えめだ。
「(攻める直前に仲間の方を見ていたし、多分時間稼ぎか?)」
そんな考察も無意味となり、槍の軌道を読んでいたブライアンがその一撃を回避しつつ槍を捕まえる。
「しまっ──ぐっ?!」
ブライアンはその掴んだ槍を力一杯に押す。
突然のことで対処は遅れつつも胸に向けて押される槍を両手で抑えて堪える。
拳一つ分の距離で耐えている。
「へ、へへ……っ!」
相方同様に嘲笑うような、したり顔を浮かべそうになったベネツの顔が、ブライアンの方を見た途端に固まる。
ベネツが両手で必死に止めている押し込みは、ブライアンの片手によって織り成されていた。
その光景に絶望しかけているベネツを置いて、ブライアンがもう片方の手を槍に添える。
両手になったブライアンが槍を上へ向ける。
「ま、じ……かよおぉ……」
槍の柄を必死に掴んでいたベネツはそのまま身体ごと持ち上げられる。
空中で宙ぶらりんになったベネツ。しかしそれを利用して、右足を上から槍に巻きつけるようにして絡め、全体重を左へとかける。
が、それでもビクともしない。
想定外の事態が起こったもののベネツは槍を諦めて手を離す。
そして地面に着地した彼はすぐに倒れている相方の方へ駆け寄り、地面に転がる剣を手を伸ばす。
しかし槍が自由になったことで今度はブライアンが動く。
「すまない」
「速ずぅっ──」
矛先は自分に向けたまま横一閃に柄でベネツを殴る。
バゴッだか、ベギッという音と共にベネツが吹っ飛ばされる。
「べ……ベネ、ヅアッ!?」
相方の看守もようやく身体を起こすが、すぐに背中を槍で叩かれ地に伏す。
僅か二分足らずで無手のブライアンだけが立っている。それも無傷で。




