投げる、そして回避
しかしその最適解を使えるかが問題だ。
俺の身体は怪我と空腹、貧血なんかでほとんど動かせない。そんな状態だというのに、おまけとしてブライアンの脇に抱えられている。
無理矢理抜け出すのも厳しそうだ。
「(離すように言うか)」
動けなくてもゲートを使えば良い。
そう考えて口を開く。
「ゔぁあ……っ」
数分ぶりというだけで喉から出た声はかなり枯れていた。しかも発声をすると喉がジンジンする。
この域はいよいよ持ってヤバいのではないだろうか? と、焦りを感じたのも束の間。
まるで俺の掠れ声を合図にしたかのように看守たちが先に動く。
それとほぼ同タイミングでブライアンが俺を背後に放る。
「……ゔぇ?」
「坊主ッ、受け身は自分で取れ!!」
文字通り投げられた。
「(ちょっと待てぇ!)」
怪我している子供を放り投げるな! と心の中で文句を言いつつも言われた通りに着地する。
しかし想定通りに、いや想定以上に着地した瞬間、その場で悶絶したくなるような痛みに襲われる。
それを歯を食い縛ってなんとか耐える。
「勝てると思うなよっ!」
「私に逆らうな!」
二人が威勢良く声を上げ、ベネツは槍を、もう一人の看守はショートソードをそれぞれ中段と下段で構えてブライアンに突進して来る。
対してブライアンは無手。
俺という荷物を手放したとはいえ、それでどこまで相手出来るのかは少し気になる。
しかしそれでブライアンを失う可能性がある以上傍観し続ける訳にはいかない。
「(もう一回動けよ、身体)」
だから助太刀するべく、布を取払い体勢を整える。
『天眼』を使用したまま彼らの方を見れば、ブライアンが看守たちの猛攻を平然と避けている。
一見すれば防戦一方にも取れる状況だが、当のブライアンからは全く焦っている様子が見られない。
その様子に俺の動きが止まってしまう。
「(大丈夫……なのか?)」
まるで見切っているかのように攻撃を避けている。しかしだからと言って看守二人の攻撃が緩いという訳ではない。
ベネツの方は動きを悟らせないようにフェイント混じりに、逆に冷静そうな相方は剣を勢い強く振るっている。
「(意外だな。戦い方は逆のタイプなのか)」
発言や性格から勝手に相手の動きを決めつけてしまっていたため少々面喰らう。
どちらも自前の動きと訓練された動きが合わさったような動きをしている。
「(それを物ともしてないのはさすが王国騎士って感じだな)」
彼らがどうフェイントを入れようと。どれだけ速く動き、速い攻撃を繰り出そうと。どう連携を取り、隙を生み出そうとしても全てが躱されている。
特にすごいのは死角からの攻撃にさえ対処している点だろう。
「(俺は天眼で見れるから回避出来るけど、もしかしてあいつもそういう系の能力か?)」
ブライアンの能力を考察していると、ずっと避けに徹していた彼が動き始める。




