大荷物、そして巻き込み
「はあー……色々楽しませてもらったし、そろそろ本題に行こうぜ」
「そうですね」
二人はそう言うと先程からずっと解くことのなかった警戒体勢に加え、殺気の籠った眼差しでブライアンを睨む。
その様子の変化に俺だけが驚く。
敵意を向けられているブライアンは少しだけ困った顔ではあるが、彼らの突然の変わり様に驚いてはいない。
「その大荷物はなんだ。答えろ」
つい今し方まで弾ませていた声はどこへやら。ベネツと呼ばれた看守が低く唸る様な声音で問う。
「(大荷物……あ、俺か)」
彼の言葉が思い当たらず、少しばかり考えてしまう。
よくよく考えてみれば、今は子供とはいえ赤ん坊まで縮んでいる訳ではないのだから大布でもそれなりの大きさである。
『天眼』を彼ら側に寄せてブライアンを見れば、脇に全長百センチ以上の何かを抱えている。
それも真ん中部分を。
当然こんな物を持った嫌っている外部の男が現れたのだから警戒を解くことなんてしないか。
「……言えません」
そしてブライアンも答えるはずがない。
言えば処罰、言わなくても強行されて見つかる。それが分からない男ではないと思うが……
というか最初に俺を連れ出した時点である程度はこうなることも予測出来たはずだし、考えなしに動く者はいないだろう。
それに俺がキリサキを探すためだけならそもそも牢から出す必要もないはず。
藁にも縋りたい人間故にここ一番でミスったか?
「なら私たちが確認します。動かないでください」
もう一人の看守がそう言うと、二人の看守は徐々に距離を詰めて来る。それはさすがに困るためブライアンも身構える。
ブライアンが動いたことで二人はさらに警戒の色を強める。
重たい空気がこの場を満たす。
ここがもし三階層や六階層のような囚人の多い場所であったならブライアンは何もしないだろう。
隙のない構えから高い実力は伺えるものの、この二人が王国騎士副隊長に勝てるかは怪しい。
それは上階でも同じだろうけど『他の誰かに見られる』点は階下の方が安心だ。
事実先程から面白可笑しく笑っていた二人は、こんな状態に陥っていても他の看守を呼ぶそぶりがない。
「(マズいな。このまま戦闘が起こったら上から看守がやって来るよな……もしそうなればブライアンの目論見は潰れてくれるけど)」
しかし堅牢署から出る手立てが一つ消えることにもなる。
ブライアンが敵か味方かはまだ不明だが、少なくとも能力を出汁にしている今は協力してくれる。
そんな彼を今失えば俺も損失は大きい。
それ故にこっちも協力するハメになる。
「(早期に終わらせるなら麻痺を使うしかないか……)」
猶予は約十秒程という長いようで短い間にこの状況の最適解を考える。




