用、そして懇願
今し方まで目を細めて眠そうな顔をしていた看守たち。しかしブライアンに気がつくとその表情が一気に険しくなる。
「なんの用だ?!」
武器こそ構えてはいないが臨戦体制ばりに身構えている。
怒声の如く声を荒げて問う看守に対してブライアンは至って真剣な表情で答える。
「少しで良いんで食事と水を分けてください。お願いします!」
「「「!?」」」
深々と頭を下げるブライアン。そんな彼が告げた内容に俺を含め、見張をしていた看守二人も驚く。
「(さっきは焦っていた様子を隠すこともままならない状態だったのに……)」
いくら俺が目的の人物を探すために生かす必要があるにしても、すぐさま行動に移すとは思わなかった。
「(これは……どっちだ?)」
食事を与えて恩を売るのが目的か、それとも食事をチラつかせてキリサキを探させるつもりか。
どちらにせよブライアンが何を考えているかを知る必要もあるし、俺が脱獄させられていることを黙っている必要もある。
ここは黙って様子を見ておくか。
「はあ? 何故そんな物が欲しいんだ? 食事なら外で食べれば良いだろ」
「今すぐ必要なんです。お願いします」
「……何に必要なんだ? 見た所、あなたが空腹で死にそうには見えませんが」
当然そんな要求を「はいそうですか」と言って飲んではもらえず、もう一人の看守に用途を問われる。
「……囚人の中にキリサキを探すことの出来る者がいた。ただ食事とかをまともに摂れてないらしくて、今すぐに水と食事が必要なんや! だからお願いします! 少しで良いんで!!」
「(こいつ、馬鹿正直に言いやがった……)」
部長でなくても罪人を捕える側の人間が囚人に協力を要請するなんて普通はしない。
もちろん例外はあるだろうが、それにしたって可能性があるというだけで確実に出来るかも分からない囚人の能力を信用するか?
それともただ焦っているだけなのか?
「では尚のこと渡す訳にはいかないですね」
再三お願いをするも断られてしまう。
「(これだけ頼んでも断られるんだからさすがにこいつも諦めるだろう)」
そうなればキリサキを探す代わりにこの食事を、がなくなる。
まあ、そうなれば俺自身の命も危ういのだが……いっそのことブライアンが彼らの相手をしている間に盗みに行くという手もある。
脱獄に窃盗ともう言い逃れは出来なくなるが、下手に取引を持ち出されるよりは良い。
「お願いします! 子供なんです! これ以上食事が摂れなければ死んでしまうんです! 俺に出来ることならなんでもしますんで、お願いします!」
早々に見切りをつけて別のプランを思案していると、今度は地に頭を着けて諦めずに懇願するブライアン。
その情熱はすごい。
そこまでして食料を手に入れたいのだと思い知らされ、彼に呆れてしまう。




