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ミルフィー亭、そして侵入

 

「ん?手紙?」

「はい」


 買い物に付き合わされた翌日、ポールさんから俺宛に手紙が届いたと言われ渡されたのはかなり素材の良い封筒に入った手紙だった。

 裏返してみるとミルフィーさんからだった。

 ポールさんにお礼を言ってから部屋へ戻って読むことにした。


「えーっと...」


 封を開けて中を読む。

 手紙の内容を簡単にまとめると、

 十七日後の昼頃に貴族や大商人の連れて来た料理人による料理対決があるので、それに出てくれ。詳しい話は着いてからする。

 こんな感じだ。簡単にまとめたのだから短いと言われても困る。

 料理対決って俺は家で母さんの代わりにご飯の支度をしていたから多少出来るだけなんだけど...


「どうしようかなー」


 そんな俺の小さな叫びは部屋の中で悲しく消えて行った。


 ______________


「と、言うわけです。引き受けてくださいますでしょうか?」

「はぁ、まーそういうことなら」

「ありがとうございます」


 豪華な椅子から立ち上がったミルフィーさんが一礼する。

 結局受けることになった。

 ミルフィーさんの話では、今日の料理対決には本当は別の人が呼ばれていたそうなのだが俺に手紙を送る三日前から行方が分かっていなそうだ。

 他の人にも声をかけたそうだがその人たちも行方不明だそうだ。そこで俺のことを思い出して手紙を送ったとのこと。

 直接出向かず手紙で俺を呼んだのはまたしても行方が掴めなくなるの警戒してとのこと。

 どういうことかと言うと行方不明になった料理人たちはその数日前にある男に会っていたそうだ。

 その男の名前はテリオス・スミス・ドフェルグと言い、毎回準優勝を獲得していたらしいが四回ほど前から優勝しているそうだ。それまではずっとミルフィーさんが優勝していたそうだ。

 ただ気になることが起こったのがその四回ほど前の料理対決からで、ミルフィーさんが呼んだ料理人たちが行方を消しているのだ。

 しかし料理対決から数日後に訪ねると普段通り生活していたそうで、なぜいなかったのかを訊いたが全員「覚えていない」の一点張りだったそうだ。その時の彼らの表情は何かを隠している感じだったそうだ。

 そんなことが四回も続けば流石にその男が怪しまれる。

 だがその男にはアリバイが有ったとのこと。しかしそのアリバイの証人もテリオスと裏で繋がりがあることをミルフィーさんのところの人が勝手に突き止めたそうだ。


「そして申し訳ないのですが当日まで、身柄をこちらで預からせていただきます」


 背後を見ると宰相のドミニオさんと四人の武器持ちの兵士が扉の前で待機していた。


「手荒な真似をしてしまって申し訳ございません。ですが今回の、三十回目の料理対決には勝たなくてならないのです。どうかお願い致します」


 ミルフィーさんは涙を流しながら再び一礼する。

 たかだか料理対決でそこまでするテリオスという男、そして涙を流すミルフィーさん。

 まだ何かありそうだな。(しゃく)だけど神様(あいつ)に訊くしかないか....


「はあー....」


 嫌気で溜め息が(こぼ)れ出る。

 ドミニオさんにある部屋へと案内された。

 部屋の中は一見豪華な造りだし家具なども見ただけで良い物だと分かる物ばかりある。

 ただし窓がない。


「要が御座いましたらお呼び下さいませ。では、(わたくし)はこれで」


 そう言ってドミニオさんは部屋を出た。


『訊きたいことがあるんだが、今大丈夫か?』

『アズマくんからなんて珍しいね。大丈夫だよ』

『どうせ今俺がいる場所は分かってるんだろ?』

『ミルフィー婦人のところだろ』

『ああ、理由の方は?』

『それも知っているよ』


 本当にストーカーだな。


『それでなんだが、料理対決って料理勝負以外にも何かあるのか?』

『確か今回の料理対決で三十回目だったかな?』

『ああ』

『じゃあ料理対決が何なのか、から話そうか』


 そこからは料理対決について教えてもらった。

 料理対決で優勝すると賞金と賞状、そして“食貴”という称号を貰えるそうだ。

 “食貴”を持っていると幾つかの利得があり、例えば、食糧や道具などを確保する際の資金の半分以上が国から出される。

 他には優勝した双方が許可したら食事のマナーを自由に変えたり作ったり出来るのような少し変な物もあるそうだ。

 その中でミルフィーさんが困りそうな物だとしても“食貴”は優勝者たちにのみ与えられる称号故、称号を持っていた者が負けると称号を返納しなくてはならないそうだ。


『今ミルフィー婦人は四回優勝を取り損なってしまったからね』

『だからって俺を捕まえなくても良いだろ』

『話は戻すけどその料理対決は十回に一度だけ二対二のチーム戦で行われるんだよ、毎回一人だとっという理由でそうなったようだよ。勿論、優勝したペアには“食貴”がそれぞれ送られるそうだ』


 なるほど。


『だから、何で俺は捕まらなきゃいけないんだ?』

『十回に一度の対決にはミルフィー婦人は毎回自分の息子さんを出場させていたんだよ、(ちな)みに彼女の息子さんは王宮料理長を勤めていてね、この料理対決が出来てからは“食貴”を持った料理人が料理長をすることになっているんだ、勝手にね』

『?それだと料理長が複数出来るんじゃ?』

『大丈夫、対決が行われると“食貴”を返納しないといけないから被ることはないよ。それにこの十回に一度ので称号持ちの王宮料理長が二人いたとしてもその場合は各自で決めてくれるから私は知らないけどね』

『そうか』

『王宮料理長は一度決まるとそれ相応の理由がない限りは次のペア料理対決までは続けて貰うことになっているよ』

『てことは....俺が呼ばれて捕まった理由ってそれが原因な訳?』

『正解』


 神様の弾んだ声に俺は溜め息を吐く。

 ようするに俺がミルフィーさんの息子さんと一緒に料理対決で優勝する。それで息子さんは王宮料理長を続けられる。

 ただ俺を捕まえた理由だが他にもあるな。


『なあ、テリオス・スミス・ドフェルグって男知ってるか?』

『一様ね、うちの貴族だね』

『どんなやつなんだ?』

『うーん...私もよく分からないかな。ただ陰険な男だね、と言っても表でもいい顔はしていないから陰鬱な男の方が合っているかもね。この間も何か仕出かしたようだしね』

『今回、というか四回前の料理対決からミルフィーさんの選んだ料理人たちに何かしているのは?』

『していたね、でも何をしていたかまでは言わない。そこからはアズマくんが調べてくれないと私がつまらないもの』

『あのなぁ』

『ふふ、まあ私が教えてあげられるのはここまでだね。後は頑張ってね、私、いやミルフィー婦人の為に』


 今私のって言いかけたな。


『ああ頑張ってみるよ、ありがとな』

『うん』


 念話を切り少し黙ってから、


「面倒事に巻き込まれたなー、はあー」


 そう言って溜め息を吐いてからゲートを開いてこっそり家へと帰る。


______________

 

「って訳で、今捕まってる」


 全員が黙る。


「東はどうしたいの?」

「一応対決には出るけどそれだけじゃダメだと思うんだよ」

「そうよね、そのテリオスって男がいる限り毎回アズマが料理対決のお供として出なきゃいけないものね」

「それに息子さんの方も危険かもしれないですね」

「ああ、だからいっそ乗り込もうかなって」

「簡単に言うわね」

「まあ、アズマなら簡単なんだろうけど」

「いつ、も通り」

「ですね」


 そんな感じで笑いながら言う女性陣。


「でも東が乗り込んでいる間はどうするの?」

「!そうよね、アズマがいなくなったらミルフィーさんは辛いでしょうね」

「ああ、だからユキナのペンダントを借りようと思ってな」

「これ、を?」


 ユキナは首からペンダントを外す。


「これを使えば俺がいなくても誤魔化せると思う」

「でもそれってアズマの姿になるだけだからすぐにバレるんじゃない?」

「そこを何とか、バレないように振る舞って欲しいんだ」

「あんた、簡単に言うけど声とかはどうするの?」

「極力会話を避ければ何とかなると思う。幸いだけど個室で要がある時以外はドミニオさんや兵士も中には入って来ないと思う」


 しかし沈黙が走る。難しいのは分かるがこれを何とかしなくては解決にならない。


「ならボクがやろうか?」


 リリーの言葉に全員の視線が彼女に集まる。


「いいのか?」

「ああ、別に何かをやらされる訳でもないならボクにだって出来るからね」

「そうかありがとな、リリー」

「いやいや」


 そんな会話をしている東とリリーを観ていて何かを気づいた婚約者たちはがっかりそうな表情だったのを東は知らない。


「それで、その貴族の家は知ってるんでしょうね?」

「...あ」


 俺の漏らしに、全員が呆れた表情を浮かべる。


「えーっと、き、キリの直感で探して...もらおうかなーって...」


 皆んなは呆れた顔を辞めない。

 今思いついたやり方だけどいい方だと思う。だからその目を辞めてください!


「はあ...まあいいわ、キリ、リリー頑張ってね」

「ええ」

「ああ、任してくれよ」


 俺を置いて女性陣はキリやリリーに応援の言葉を掛け合っている。


 ______________


「じゃあ頼んだ、リリー」

「ああ」


 リリーは首から下げているペンダントに魔力を流す。さらにそこに俺とキリの魔力も流す。

 俺の魔力を流すことで長時間続くメリットに加えて二つの魔力がペンダントに流れることで幻影を強くする。

 つまりより偽物だと判別し難くなる。これは魔力が多くても出来ることなのだが、加えられた異なる魔力の数だけ強くなるようだ。

 なので今俺の前にいるのは鏡に映る自分のように見える。

 便利なペンダントだ。

 俺の姿になったのを確認してからゲートを開き、ミルフィー亭から少し離れたところに出る。


「キリ、頼む」

「ええ」


 キリは目を瞑り、何かに集中する。


「......あの、金の龍が築いた家、までしか分からないわ」


 そう言ってキリが指差した方を見る。


「うげぇ⁉︎」


 あまりの外装に驚きの声をあげてしまった。

 キリの示した家は、金色の龍が屋根の辺りに巻き付いており、他にも金色の装飾がされた、観るからに趣味の悪い家だった。


「はあー...」


 キリをゲートで家へ送ろうとしたら王都の店に寄ってから帰ると言うのでそちら側の路地裏にゲートを繋ぎ、キリを見送ってから深いため息を吐く。

 キリの直感だから間違っていないと思うが、今回はある意味外れて欲しかったかもしれない。


「どんな性格してんだ?悪趣味な(あんな)家に住むなんて」


 そんなことを(なげ)きながら、千里眼でゲートを開いても騒がれなさそうな所を探してゲートを開く。

 キリに教えてもらった家の中に入る前に宝物庫からカレメローンの鱗を着けたフード(以後、ステルスと記載)を取り出し身に付ける。

 そして千里眼とゲートで中に侵入する。

 俺はテリオスの顔を知らないが、キリのように勘で行くとしよう。当たるかはさて置き。

 魔眼を使い家中から漂う霧の色の悪そうなのを選び、跡を辿(たど)る。

 霧はその持ち主のいる方に行けば行くほど濃くなるので辿り易い。


「テリオス様、ボワン伯爵が着きました」

「そうか」


 六十代ほどの男がふっくら、いやどっしりかな?の男に報告しているところに出くわした。

 どうやら勘が当たったようだ。でも、ボワン伯爵...何処かで訊いたような。

 そんなことを考えている間にも二人は多分、ボワン伯爵の元へと向かうので、俺も慌てて跡を追う。

 跡を追って行くと二人はある部屋に入った。

 俺も千里眼とゲートでお邪魔する。


「⁉︎」


 俺はテリオスの向かいに座る男の顔を見て、目を見開いた。

 真っ赤なサーコートに青のブリーチズという豪華な服を着た、イヤラしい笑みを浮かべた顔はその男の名前を頭の隅から引っ張り出させた。

 アンタレスでユキナを買おうとしていた男、サヘルだった。

 ユキナの一件もあったため冷静さを失いそうになるのをなんとか抑える。自分がここにいる理由を思い出しながら。


「どうもサヘル伯爵、今回は何用で?」

「ふっ、何を(とぼ)けておる。今回も前回同様、同じやり方で行くのであろう?」

「ぐふふっ、そうだとも。期待してるよ?」

「任せておけ、と言いたいところなのだが実は妙な話が入って来た」

「と言うと?」

「ミルフィー婦人が料理人を雇っていないのだ」

「何⁉︎ということは今回は我輩が何もせずとも優勝するということか⁈」

「まあ、待って。実はそれとは違う話が来ている。つい先日、ミルフィー亭にある男が呼ばれたそうだ。しかしその者はそれから出て来ていないそうだ」

「つまり...どういうことだ?」

「私の予想では料理人を保護しているのだろう、私達の企みを阻止する為に」

「ん!それでは我輩が確実に勝てぬではないか!卑怯な!」

「まあ、そう騒ぐでない。今も私の者が手を回している頃だ」

「そ、そうか。流石はサヘル伯爵、手回しがよろしい」


 そう言って笑い合う二人。

 手回しされているのか...リリーなら大丈夫だとは思うけど心配だな。後でキリたちに付いててもらうように言っとこう。


「それにしてもサヘル伯爵には感謝している。貴方のおかげで私は食貴を貰えているのですから」

「なあに、こちらも感謝しているぞ。テリオス子爵とミルフィー婦人のおかげで稼がせていただいているのでな」

「そうだったな、しかしこちらも腕の良い料理人を買い揃えられる。それに我輩も食貴で粗方儲けさせてもらっている。それに買ったことにすれば我輩は得ばかりだ」

「ミルフィー婦人が選んだだけはありますかな?」

「ああ、(しゃく)だが使えるよ」


 再び笑い合う二人。

 少しずつだがこの二人の企みが分かって来た。

 俺の予想が確かなら俺一人で何とか出来る問題ではない。それとこれを確かとするための証人も用意しないとな。

 俺はバレないようにゲートを開いてその場を後にする。


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