怖い顔、そして言えない
予想外の来客の様子を窺っていると、ブライアンは俺の牢の前で止まる。
以前の彼とは違い今回は武装をしている。
「そんなに時間は経っとらんのに、随分と怖い顔するようになったな」
彼の開口一番の言葉は困り顔と共に告げられる。
その様子からは本当に困っている様にしか見えない。
「(怖い顔をしているつもりはなかったのだが、無意識に睨んでしまったのだろうか?)」
昔から目つきで何かと言われることはあったが、この姿になってからは初めて言われたな。
幼子の顔つきは成人よりも丸く、柔らかい状態なので成長前と後とでは変わることがあるらしい。
確かこの容姿を確認した時はそこまで目つきが悪くなかったはずだしそんなに酷い目つきでも……って、今はそんなことを考えている場合ではない。
彼には色々と聞いておきたいことがある。
むしろ怖い顔が出来ているのであれば、その方が舐められずに訊き出せるかもしれないのでちょうど良い。
「……先に訊いておく。なんで協力することを首長に言わずに外へ出た?」
「…………キリサキを探さなあかんからな」
「なら俺との約束を果たしてからでも良かったはずだ」
「首長は仕事で忙しゅうて、会えなくてなー。だから仕方のう自分の役割しに行っとったんや」
「だとしても他に伝える手段はあったはずだ。置手紙なり言伝なり使えば良かったじゃないか」
「それは残念ながら無理やった。ただでさえ署員がキリサキに情報漏洩したことで署内の空気が悪なっとるから、俺が坊主と何かしようとしてるってバレたら首長諸共聴取、下手すれば懲戒もんだ。慎重にやる必要があったや」
「……」
ブライアンの言葉からは嘘を吐いている感じはしない。本心を告げていると思う。
ただ、言っていることは筋が通っているのだが、どうも納得が行かない。
首長の様子を逐一把握していなかったこともあって、彼が言っていることの辻褄を確認する術がない。
「坊主の言いたいことは分かるが、今回のは我慢してくれると助かる。こっちも色々あるねん」
「……言い分は分かった。なら今すぐ首長に話をしてきてくれるか? 場所なら教える」
仕方がないので強気に話を進めてもらう姿勢を取る。
こっちも時間がないのだ。取れる手は取らないと間に合わなくなる。
「そうだね。ならその前に──」
彼はそこで一度区切ると、軽く一息吐いてからゆっくりと口を開く。
「出よっか」
「……は?」
あっけらかんと告げる彼の言葉を理解出来ずに聞き返してしまう。
「出る? 出るって……どこを?」
「牢を……場所は少し離れるから、歩くのが痛くて辛いんなら俺が運んだるわ」
なおも彼は告げる。




