水分不足、そして落ち着き
再びミノムシの様に縄でぐるぐるに拘束され、牢に戻される。
その間も首長の部屋を物色するが見える範囲内にはそれらしい資料がない。
全体を探し見てもないのであればさっき考えていた嫌な予感が正解ってことか。
「(となると、やっぱり書類の下にあるのか?)」
物の下にあると仮定するなら、一か八かで水を使って漁るしかない。しかし水がない。
血もこれ以上使えないし、口がカラカラで唾も使えない。
移動中も片方の目で探してはいたが見つけた物の中は空だったり、手の届きそうな場所に飲み物を置いている人がいなかった。
水を使う能力と説明してしまったから俺の近くには置かないようにしていたのだろう。
ま、ミノムシ状態では見つけてもどうすることも出来なかったけど。
「(食事の時を待つか? でも次の食事は七時間後だしな……)」
脱獄したせいで食事抜きだったからお腹も空いている。というか部長の話曰く目覚めたのが三日後の昼。
さらにそこからしばらくして脱獄をしたから夕食は抜き。
首長たちが来たその日も朝食を採っていなかったから実質四日間は何も食べていない。
水も飲んでいなからそろそろ身体が限界だ。
自分の血なら幾分か飲んだけど、さすがに足りない。
……ん? ということはこの眠気って……
「水分不足……?」
昔に近い症状なら二、三回程なった。ただ、さすがに三日を迎える前には水分補給はしていた。
だから気がつくまでに時間がかかった。
「あー……急いでいる時に限って別の急ぎの要件が出来るのはなんなんだぁ……」
問題の痛さに頭を抱える。
空腹はギリギリだけど耐えられる。しかし水はこれ以上取らないと死ぬ。
しかも水分不足での症状が出たってことは本当に死の一歩手前だろうから、今すぐ水が必要だ。
「(どこかで水の確保が最優先! でもどこで?!)」
もう一度脱獄をしようにも同じ手段は使えない。かと言って翌日の朝食時間まで身体が保つかも怪しい。
生き残れる可能性が低過ぎる。
生き残らなければ──
「絶対に見つける!!」
覚悟を決め、『天眼』を首長の部屋から堅牢署内にある水を隈なく探し始める。
しかし隈なく探す必要はすぐになくなる。
先程この牢に戻される前に見た空のコップ。そこには水が入っていた。
「(あれがいる! でもどうやってっ?!)」
目的の物がすんなりと見つかったことへの喜びと困惑が強くなる。
「(……落ち着こう。一旦考えを休めた方が良いか)」
ゆっくりと深呼吸をする。空気を吸う度に身体が痛い。
しかし目覚めた時とは違い鈍痛だ。脱獄と若い医者のダメージも相当溜まっている。
もう身体は限界に近いし、そこに加えて水分不足による眠気。
眠気が強いせいで頭がボーッとする。これのせいで焦りがより強くなるのに考えはまとまり難くなっている気がする。
だから落ち着いてしっかり集中しないと皆を救えなくなる。
「──……ん? また足音だ」
深呼吸の効果が出たのか近づいて来る足音を捉える。ただここから大分足音の距離が近い気がする。
誰が近づいて来たのか。
それを確認するべく視線をそちらに向け『千里眼』を使う。
「っ! ブライアン……!」
見えた人影に息を呑む。
色々と話を聞きたかったずっと姿を見せずにいた男がこちらへと向かって来ていた。




