対処法、そして諦め
「(さて、若い方の医師の真意はともかくとして、多少の情報は手に入った。あとは肝心の情報を見つけるだけ)」
サブプランにすらなかった情報を入手出来た。もちろん嬉しくはあるが、今は使わない情報なんだよな。
大事な書類で少し前の物なら引き出しだと踏んで覗いてみたけど見つかったのはついさっきの脱獄の報告書。
「(となると、目当ての物はこの下にある可能性の方が高い。高いけど……どうしよう)」
あるのはここから直線でも八十か九十メートルは先の部屋にある机の引き出し内。
ゲートがあれば造作もないことだが、あいにく今は取り上げられている。
なので固有能力だけでなんとか対処するしかない、と。
「(どの能力も不向きだ)」
『水流操作』は戦闘続きや脱獄の時の思いつきである程度使いこなせるようにはなった。だから血を使って首長の部屋まで這わせればもっと探すことが出来るとは思う。
ただそれにも二つほど問題がある。
一つは、これ以上血を使うのは危険ということ。ここ最近はずっと大量の血を流しているし、脱獄の時もそこそこ多めの血を使った。
恐らく今感じている眠気も血を出し過ぎて意識が朦朧としているためだろう。まともな療養もしていないからなおさらだ。
だからこれ以上血を使えば命に関わる。
もう一つは、首長の部屋まで能力が続くかどうか。
若い医師との戦闘で分かったのは、遠隔で操っていると『ウォーミル』で固めた血は徐々に脆くなっていく(仮説だけど)。今までは水儒核と合わせて使っていたから硬度を持続出来ていたのだろう。
首長の部屋までは液状でも良いが、書類を探す時は固形化させる必要がある。
その際もだが、そこまで能力の制御が効くかが分からないんだよな。今までの遠隔最長距離は二十メートル弱。
その間は自由に動かせたが、首長の部屋までの距離を考えるとそれが出来るかが怪しい。
能力を手にしてからずっとぶっつけ本番でしか試せていない。誰かに見つかる訳にはいかないから途中で操れなくなったら困る。
かと言ってそれ以外の能力ではどうしようもない。
それなら一か八かでも試すべきではあるか。
「(いっそのこと首長かブライアンのどちらかに協力を仰げればこんな賭けに出なくても良いんだけど……)」
そんな叶わない願いを考えていると、ずっとしゃべっていた三十代の看守がようやく黙る。
なんの反応も示さずにいたためかそれとも周りの空気を理解してか、彼はムスッとした顔をしている。
そして大きく舌打ちをしてから「牢に戻しておけ!」と叫ぶように命令をし、部屋から出て行く際も再度舌打ちをしてから扉を強めに閉めて出て行った。
「舌打ちの大安売り……」
「プッ……」
彼らの言動に感じたことを呟くと看守の一人が吹き出す。
小さく溢したくらいの声量だったのに聞き取れたらしい。




