眠気、そしてミノムシ
しかし俺が冤罪だと証明するための対処先は分かった。
部長が言っていた目撃情報と見つかったとされる毛髪や取引書類だ。書類は家宅捜査時にでも混入させたのだろう。
目撃した人数は百三十一人と書かれていたが、うち八十八名は堅牢署員とのこと。
となればまず確認したいのは、その見つかったとされる書類。それと可能であれば情報屋もだな。
書類はあるすれば首長の部屋のどこかだろう。
情報屋は多分堅牢署の牢屋に閉じ込められているだろうから人相さえ分かれば確認することが出来る。あ、人相が分かった時点で問題ないか。
「ふぁ……あー、眠いな……」
考え込んでいるとあくびが出る。強めの眠気に襲われる。
気絶から目覚めて恐らく二十一時間以上は起きている。その間に色々とあったのと三日間も気を失っていた訳だから、それまでの疲れが今来たのだろう。
首長たちが家宅捜査に来る時にも似た様な状態だったっけ……
「首長を呼ぶのは……少し寝てからにしよう……」
本能に抗うのを諦めて目を閉じる。
そうして眠りに入ろうとしたその時だった。
遠くから足音が近づいて来るのに気がつく。それも今までと違い走っている足音だ。
とりあえず目を閉じたまま『天眼』でそちらの様子を窺う。
走ってきていたのは先ほど部長と話し合っていた人だった。衣装が違うが、看守だったのか。
その後ろにはさらに三人の看守が着いてきている。彼らの手には縄や石の錠が持たれている。
「(ずいぶんと大事の様子だけど、また何かあったのか?)」
『天眼』を彼らから外して皆がいる牢を確認するために魔力を操作する。
キリたちが移動させられた牢は確か一階層下の四階層に送られると首長の部屋の報告書類に書かれていたので下だろう。
下の一区画、五の三の牢に移されたらしい。
数字での割り当ではどこなのか分からないので『魔眼』で霧を追うとしよう。
「おい」
今度置くとしたら遠くに置くと思うんだよな。キリサキを警戒しているけど、容体も良くはないから離し過ぎない程度の所に置くだろうな。
そう仮定してから探しても良いかも知れないな。
「おい!」
「……何」
キリたちがどこの牢に移動させられたかを思案していると、牢の前で立ち止まった部長と話をしていた者とその他の看守たち。
面倒ごとを避けたかったので最初の呼びかけには反応しなかった。
しかし相手もそれで許してくれるはずもなく、仕方がないので今度は応答する。
「ネフィス看守部長がお呼びだ。お前を連行する!」
三十代くらいの彼が告げると後ろにいた看守たちが牢の中に入ってくる。
そして持っていた縄や石錠をかける。
怪我人だというのにそんなことは気にも止めずにキツく結んでくる。
「拘束の量、多くないか?」
石錠をかせられ、さらに指もそれぞれで縄で結ばれ、腕と身体を密着しての拘束。
最後に足にも縄を厳重に拘束され、ミノムシに近い状態にされる。
「お前はそれだけせねばならんとネフィス看守部長の指示だ。大人しくしていろ」
突き放すような物言いで答えた彼は、綻びがないかを確認するかの如く俺の状態をぐるぐる確認している。
そうして確認を終えた彼が「よし、連行する!」と告げると周囲に待機していた三人の看守がせーので俺を持ち上げる。
そのまま牢から出て来た道を戻って行く。




