書類、そして内容
現れたのは首長が来る際に連れていたお付き人の一人だった。
その手には厚めの文庫本ほどの分厚さがある書類が持たれている。
「ほら。言われていた書類だ」
ぶっきらぼうに告げた彼は、しかし書類を丁寧に床に置いて渡してくれる。
重要書類であるためその対応にも頷ける。
ただ──
「拘束されたままだと読めないんだけど……」
脱獄し捕まった際に両腕を拘束されいる。
この状態で書類を読むのは難しい。と訴える。
「首長からの言伝だ。”貴様ならその状態でも読める。読み終えたら呼べ”とのことだ。全く囚人にこんな対応をするなんて、上は何を考えてんだか」
苦虫を嚙み潰したような表情で毒を吐いた男は来た道を戻って行った。
牢内の手前に置かれた書類を呆然と眺めながら思案する。
拘束された状態で読むことに対する首長の言葉は「貴様なら出来る」と言われた。
こんな無理な状態からの脱却方法を自力で模索してどうにかしろ、と?
「無茶を言うなー」
彼女らに説明した能力の内容からではそんな芸当が可能だと考えないはず。
目にした対象は遠くに居ても見える『千里眼』と
何を考えて出来ると思ったのかが謎だ。
「ま、出来るけどさ」
彼女の判断理由に困惑はしているが、それはとりあえず置いておくことにする。
俺から絶妙に遠い場所に置かれた書類を足を伸ばして近づけ、後ろに縛られた手でページを捲る。
『天眼』にすれば苦労なく読める。
報告書を一通り読み終え一息つく。
大体をまとめると、
・二週間前に侵入者によってボアアガロンのボスの脱走が起こる。その際に侵入者は魔獣を連れていた。
・署員や周辺の聴取によりアズマ・キリサキを目撃した人物が多数いた。また、脱走があった地下十階層から上へ行くための階段に黒の毛髪が落ちていた。
・十日前にキリサキが雇った情報屋を捕縛。堅牢署周辺の情報と傭兵の手引きを実行していた。傭兵は脱走後の護衛兼商人への偽装用。
・目撃情報等から一週間前にキリサキ邸に家宅捜査、並びに容疑者であるキリサキ一派を連行。
・キリサキ邸から堅牢署内の図面が見つかる。そこから署員との取引が疑われ、五日前に逃げ出した署員を捕縛。署内の図面と署員が交代する時間等を渡していたことが発覚。
こんな感じだったが、これが大体半分の内容。あとは細かい情報や被害の報告、魔道具の使用の確認とかだ。
全て読み終えて感じたのは、
「思ったよりも情報が少ないな」
だった。
確かに証拠的には揃っているし、何があったかなどはこれでも分かる。
例えば、目撃情報の部分もいつ、誰が目撃したかや脱走者の容姿の特徴、状況などは書かれている。
しかし俺の情報ばかりで魔獣の情報が少ない。
分かっているのは、ナシャージャという鳥の魔獣であること。正体が判明しているためか二、三文だけでそれ以外に目撃されたという報告がない。
普通街中に魔獣がいた場合はそっち目が行くのではないか? それにいくら断定出来ていたとしても聴取したのなら報告するものではないのだろうか?
疑問の残る報告書だ。




