逆取引、そして違和感
だから彼のその想いを利用する。
「捕まえたいのは理解した。だから今度はこっちから取引の提案だ」
「……聞こう」
想定よりもあっさりと部長がこちらの申し出を聞く態度を示され肩透かしを喰らう。
彼の性格なら少し文句でも言ってくると覚悟していたが杞憂だったらしい。
「今回の犯人確保の協力はする。その代わり犯人の目的や根城なんかの情報、というか今回の脱獄に関わっていた者たち全ての情報を共有して欲しい」
「……了解した。それでその他は」
「これだけで良い」
「何?」
「……なんだと?」
提案の内容を聞いた部長と首長が同時に声を上げる。
「本当にそれで良いのだな?」
部長の目が鋭くなりさらに怖い顔つきになる。
これで臆する気はないが少し発言し難い。が、内容が内容だし仕方のないこと。
相手が自分に不利な内容の取引を持ちかけてきたのだから警戒はする。
「ああ、問題ない。ただ協力するんだから事前に分かっていることも共有してもらう」
「それくらいなら良いだろう」
そのためしっかりと断りと念を入れておく。
これで情報を得れれば少しは犯人確保に近づける。犯人を捕まえることが出来れば、必然的に俺の冤罪も発覚し釈放される。
ただ冤罪後の生活はかなり厳しくなるかもな……別の国でひっそりと冒険者活動になるかもしれないな。
それもこれも主犯と俺が犯人だと言っているその証言者たちのせいだ。
絶対に見つけてやる!
「首長。あなたがブライアンに提供している情報を小僧にも渡してはいかがです」
「私が渡しているのはただの報告書の内容と同じだ。変な物言いをするな」
「私は特段変な言い方はしておらんが、そう感じる何かがあったのですかな?」
「…………いや、失礼した。どうも疲れからか変に言葉に反応してしまってな。すまないが忘れてくれ」
「そうでしたか。首長というのはお忙しいので仕方がないかと」
すると首長と部長が妙な言い合いを繰り広げる。
しかしまたしてもすぐに首長が折れる。引いた彼女に嫌味を残す部長の顔は何故か不愉快そうだ。
「(部長のブライアンに対する当たりもだが、さっきから首長の様子が気になる)」
少しだけ怒っている様子の首長を置いて部長がこちらに視線を落とす。
「その提案了承しよう。ただし、自分で言ったのだからこれ以上の要求は許さん」
「ああ」
部長はそれだけ言って去って行った。
残った首長は彼が過ぎ去って行くのを見届けている。
「……あの部長さんのこと嫌いなのか?」
そんな彼女に向けて単刀直入で尋ねる。
せっかくの二人きりなので直接訊くことにした。
正確には見張りと首長のお付き人がいるため完全な二人きりではないが、両者の関係を知っておく必要もあるので彼らの存在は気にしない。
どこかのタイミングで利用出来るかもしれない。
首長はゆっくりとこちらに振り返る。その顔は怪訝と怒りが窺える。
「なに、やつは少し硬過ぎるが優秀な男だ。互いにキリサキを捕えたいという考えは一緒だが、少々アイツの方が強過ぎて私が気後れしているらしい。それがそう思わせたのだろう」
しかしその表情は諦めた様な笑顔に変わり、呆れた様子の物言いで答える。
確かに免訴の件から考えて桐崎を探すために囚人を利用しようとしていた。地球でも事件解決のために囚人に助力を求めたケースはいくつかあるらしいが、彼の態度はそれに似ているが、別の物な感じもする。
「貴様の要求通り後で報告内容を渡そう。それまでは今度こそ大人しくしろ」
首長は最後に念を押してから立ち去ろうとする。
しかしまだ帰ってもらっては困るため慌てて彼女を呼び止める。




