取引、そして免訴
「ならばその能力を見込んで取引をしないか?」
「取引……?」
「勝手な行動は控えろ! ネフィス看守部長」
「首長殿は黙っていてもらおう。今回の件、この小僧やキリサキの女たちの脱獄や殺傷。そして発端であるこやつらの投獄場所の判断は首長殿とブライアン殿が決められた。その責任も含め、あなたが口出しするのはいかがな物かと」
「罪人の傘下とはいえ怪我人を放置する方が問題! 医療監房に近い牢に彼らを置いたのは合理的判断による物であり、誤った判断ではない」
「であるなら発端であるキリサキを捕えるのにこの提案はなんの問題もないこと。それともこの小僧を庇い立てする理由がお有りで?」
「……そんな物はない」
部長に言い伏せられた首長は苦虫を噛み潰したような顔で押し黙る。
両者の主張はどちらも正しく聞こえる。
ただ俺やキリたちが事件の発端だったと言われるのは少しばかり筋違いだと思う。
が、それを訴えるのは後だ。今は部長の提案が気になる。
「提案って、何を求めているんだ?」
「簡単だ。お前の能力で逐一キリサキの居場所の報告、可能であればその周囲の様子の報告を。代わりにお前には免訴の措置を執る。悪くない条件だろ?」
免訴……確か有罪無罪という判決をせずに訴訟を打ち切る判決だったかな?
でも別に無罪放免という訳ではなく、『理由があって罪にしない』という感じになる……で、あってるはず。
問題はその理由。法の改定による罪の該当先がなくなる、恩赦、時効などがある。
ただこれって──
「免訴って……?」
「簡潔に言えばお前の裁判をなくし、刑の判決を下さないということだ」
部長は嘯く。
彼の表情は悪意を感じさせない。
「(確認してみたがやっぱり誤魔化すか……)」
部長が言っているのはさっきの理由に該当した場合のみ。大抵の場合は該当しない理由だから、今回の件を赦すつもりなんて毛ほどもないということだ。
「ネフィス! それはあまりにも──」
「黙っているよう言ったはず! これは私と小僧との取引。横槍を入れて搔き乱そうとせんでもらおう」
「だがそれではこの子供は……」
首長は彼の思惑を理解して止めに入ってくれる。しかし言葉が引っ込む。
…………先程から首長が押し黙ったり、言葉を続けられなくなっているな。
やっぱり俺が問題を起こしたからか? でも、それにしても上司だと思える首長が部長に強く出れなくなるものなのか?
「何かあるのか?」
「──……いや。なんでもない」
彼女の様子に疑問を抱くもその回答は得られない。
ただ静かに首を横に振るのみ。
「どうだ。この取引に応じるか?」
「……断る。条件が悪過ぎる」
「どこがだ? お前の罪はなくなるのだぞ? 足りないからというのならあの女たちも同じ措置を執ろう。これなら文句はないだろ」
「大ありだ! そもそも免訴で罪がなくなるのは法改正や王の交代の時にしか適応されない。意味がない取引には応じない」
「……そうか。知っていたのなら仕方がない」
計画が頓挫したにも関わらず部長は飄々としている。
首長の言葉を遮っていた様子からしても、彼は自分の行動に罪悪感を抱いていないだろう。脱獄の主犯であり逃亡している桐崎を捕まえられ、なおかつその仲間である俺たちも罰せられるかもしれない。
態度から察するに、免訴の意味を聞かれ大事な条件の部分だけをうっかり伝え忘れた。とでも言う気だったのだろう。
もしくは知らない方が悪い、とかかもしれない。
それだけ捕まえたい想いは理解した。




