失言、そして嘘
「それは事実だな?」
彼女の確認に首を縦に振って答える。
すると部長が首長の耳元で何かを囁く。
「……あとでもう一度話を訊く」
ほんの少しだけ眉根を寄せた首長はそれだけ言って去って行こうとする。
「あ、ブライアンから話は聞いただろ? 今回のことでそれも怪しく思うかもしれないが、これは事故なんだ。いや事故で脱獄ってのも意味分からない話なんだけど、言った言葉に嘘はないんだ」
ブライアンの話をすると彼女の足が止まる。
ゆっくりとこちらに振り返る首長の顔はさっきまでと違い困惑の表情一色となっていた。
「なんの話だ? ブライアンからだと? 私は特に何も聞いていない」
「……は?」
首長の言葉に今度はこっちが困惑する。
しかし隣にいる部長の姿を見て、すぐにその想いが晴れる。
「(そうか部長がいるから下手に囚人と信用し合っているってことを知られたらマズいのか! だとしたら言うタイミングをミスったな……)」
焦ってむしろ自ら信用を減らしに行っただけだった。
どうする? この状況……
「なんの話です?」
「知らん。私が訊きたい所だ」
首長は彼からの問いをバッサリと切り捨てているけど。
それでも誤魔化せた訳ではないから疑いの目を向けている。
こんな状態から誤魔化せるか? いや誤魔化す方が怪しくなるか? でもそうしないと首長に面倒をかけるし……
「……聞いてないのか? 今回の件は冤罪で、その証拠もある。だから……首長と話をする時間を設けて欲しいって伝えてくれって頼んだんだが」
苦し紛れの言い訳。正直証拠なんてない。そんなのがあるならとっとと出してここから出ている。
だから深掘りされたら終わるという本当に意味のない言い訳を言ってしまった。
これではむしろ疑いが深まる一方だ。
「ほう。ではその証拠とやらはどこあるのだ?」
するとすぐに部長が尋ねてきた。
マズいマズいマズいっ……!! 分かってはいたけど聞かれた!
「──まず確認だ。俺の罪状はボアアガロンのボスの脱走の補助をした疑い。で、間違いないな?」
「ああ。そうだ」
「それが起こったのは昨日か一昨日なんだろ?」
とりあえず会話をしながら言い訳の辻褄を合わせられる言い訳を考える。
嘘はあまり好きではないが、この際百回吐いてでもこの場を誤魔化す必要がある。
絶対に誤魔化し切って──
「何を言ってる。件は十三、いやもうそろそろ夕刻だ。十四日は前のことだ」
「……………………はっ?」
意気込み改めるもその出鼻を挫かれる。
「(はっ? 二週間前? え? だってお前らが来たのって一昨日のはず……え?)」
記憶の情報と現実の結果が結びつかず、首長の言葉に脳の理解が追いつかない。
そんな状態の俺に部長は言葉を続けるように促してくる。
「どうした? 早く続けたらどうだ」
「──いや、そんなことより脱獄があったのが十四日も前ってどういうことだよっ?!」
が、それを無視して自分の知りたいことを訊く。
自分の立場や状況的にこの態度は問題がある。しかし今はそんなことを気にしている余裕はない。




