経緯、そして複数持ち
しばらく牢に閉じ込められている間も『天眼』で皆の様子や看守たちの動向を窺っていた。
「どういう訳かもう一度説明してもらおう」
すると先程の看守部長と共に首長が再び会いに来た。
彼女の顔は疲弊と怪訝、不満、怒りなどをごちゃ混ぜにした様な、苦労人が浮かべている表情というべきだろうか?
そんな暗く重い顔でこちらを見下ろしている。
「(脱獄犯が出れば当然か)」
彼女の様子に胸が絞めつけられる。
しかしそれを顔に出さないように努めつつ、嘘偽りなく経緯を話す。
全ての話を静かに聞き終えた首長は部長と話すために少し離れた位置へと移動する。
「(……部長が一緒なのが少し心配だな)」
経緯の説明を終始表情を変えずに聞いていたからどう考えているのか読めなかった。
それにあの部長のことも気になる。
今回の脱獄と若い医師による殺害阻止を聞き入れてくれる様子は感じられなかった。
あ、あとボアアガロンの脱獄の協力もか。
そもそもその冤罪のせいで俺らはここにいる訳だけど脱獄の話ばっかりだな。数日内に二回も脱獄が起きたのだから刑務所としての面子が関わる。
今回の件はさらに厳しい調査と対策が講じられるだろうし、俺への罰則も重くなる可能性もある。
これで懲役が増えて何年も、何十年も外に出られないことだってあり得るし、もしかしたら死刑になるかもしれない。
が、別にそんなのはどうでも良い。俺が気になるのは冤罪と何故あの医師がキリたち殺そうとしたのかだ。
冤罪をなんとか出来れば残るのは脱獄とその際に看守を動けなくさせたこととかの罪が残る。
つまり皆が無実となるなら甘んじて受け入れられる。
そのためにブライアンや首長のことを信用し信頼するのだ。
だからそれを邪魔しようとしたあの医師の思惑を知りたい訳なのだが、彼もさっきの二人の看守の様にこちらを疑い続け話を一切受け入れようとしない可能性が高い。
もしそれで首長まで飲み込まれたら完全にどうしようもなくなる。
時間からして多分ブライアンがさっきの話を通しておいてくれていると思うが、入れ違いになっていた場合こっちの話を聞き入れてくれるかどうか……
そんな不安を抱いていると部長との話を終えた首長がこちらに戻って来る。
しかしその表情は先程よりも深刻化したように感じる。
「子供、一体いくつの能力を持っている。答えろ」
突然の質問に少し戸惑う。
確かに脱獄の理由と脱獄した際に使った能力も含めた説明はさっきした。しかし何故今、そんなことを訊くのかが分からない。
能力をいくつ持っていても今回の件に関係ない気がするが。
「……全部で二つだ」
意図が分からない質問。しかし答えない訳にもいかない。
ただ皆から能力を複数持っていることは話さない方が良いと言われている。
固有能力持ちはそもそもが少ないらしい。ましてや複数持ちはさらに少数。
という説明を受けたのだが、今まで結構な人数で能力持ちがいたんだよな。というか家のパーティーもサナ以外全員能力持ちだ。
キリやユキナに至っては複数持ちだし。
しかしそれを言っても仕方がない。持っている物は持ってしまっているのだ。
なのでこの話にはこう結論づけた。「類は友を呼ぶ」。
そんな訳で公開出来そうな能力だけ公開する。
俺の場合だと──
「さっき説明したウォーミル。それと……特定の人物だけはある程度離れていても見れる千里眼の二つだ」
本来提示して良いのは『ウォーミル』だけ。一番目立つ能力なのと汎用性が高いから。
『千里眼』はそのままの能力を伝えてしまうと機密情報の盗み見などの疑いをかけられかねない。なので「特定の人物だけ」というワードをつけ足すことでその芽を摘んでおく。
それにこの能力は公言しないと、キリたちが危険な状態に遭っていたから脱獄したというさっきの説明が成り立たなくなる。
だからしっかりと嘘を混ぜつつ答える。




