振り返り、そして怒声
「(待て待て待て、待って。さすがにそんな訳ないよな!)」
いくら『状態異常無効』を神様からもらったとはいえ、能力を封じるというこの世界で最高峰に位置するであろう魔道具の影響を受けない。
そんなことがある訳ない。というかあったらダメだと。
「(きっとあれは神様がなんとか、それこそ日本語でずっと話していてくれたんだ!)」
自分に言い聞かせるも不安が残る。
「どうした? 顔色が悪いぞ?」
「あ、いや……ちょっと……」
内心焦っていると女看守が心配して声をかけてくる。しかし内容が内容だけに正直に告げられない。
多分伝えても信じてはもらえない内容だけどさ。
しかしもしかしたら! 万が一にも! 俺の予想が外れていることがなきにしも非ず!!
そんな訳で謁見の間での自分を思い返す。
言葉は神様がなんとかしたと仮定して、『魔眼』は……使えてた。
他には……ダメだ。そもそも参考資料がなさ過ぎて否定出来ない。
「ま、能力持ちってこともそれでどうやったのかも分かった。はっ、ここまで素直な脱獄犯も珍しいねぇ」
「脱獄されたことですが、一番はこんなガキに脱獄されたことが問題ですよ」
「そうだね。こりゃあ、首長ちゃんたちに大目玉もらうわ」
魔道具に対する自身の間違いついて考える傍で、「あっはっはー!」と豪快に笑う女看守とそれに微妙な表情を返す後から来た看守。
「(……当人が言うのもあれなのだが、笑っている場合なのだろうか?)」
医療監房へ行くまでに会った看守たちも叱られ、罰せられる恐れもある。
なんならその責任を首長は取らされて解雇ということも。
覚悟はしていたが、やっぱりこういう人たちにも迷惑をかけるというのを改めて目の前にすると後悔の念が湧き出てくる。
「二人共! 笑ってる場合じゃないですって!!」
最初の看守が怒りを露わにして叫ぶ。
今回ばかりは同意見。
「第一お前! 例えそれで脱獄出来たとして、どうやってここまで来たんだよ?! 道中には絶対に看守がいたはずだ! なのになんでここでことが起こるまで騒ぎが起きなかった!」
彼は怒りの噴火を続ける。
俺がいた牢から医療監房まででも十五人の看守が巡回していた。
『千里眼』で階層全体を見回した時は三十二名も看守が巡回していた。刑務所について何も知らないが、こんなに大勢が巡回する物なのだろうか?
「(という理由を訊きたかったが、その機会が訪れる様子がない。今そんなことを言えば余計に彼の逆鱗に触れそうだし)」
一応念頭に起きつつ彼の疑問に答える。
「さてはお前っ。殺したな! 見かけた側から」
「見かけた看守は全員動けないようにした。そういうことも能力で出来る。今頃は動けるようになっているはずだ」
本当は『麻痺』で動けなくしたんだけど、そっちは黙っておこう。複数持ちって言うとかなり驚かれるし。
それに能力一つ持ちと思っていてもらう方が変な警戒を与えずに済むだろうからな。
訊かれれば条件や効果も教えるつもりだ。脱獄犯だけど情状酌量の余地があるって考えてもらえるかもしれない、なんて下心もある。




