名前、そして逃亡
「キリサキの歳は十四、五歳んです。ガキん子の歳ではない! それともなんです? 実はキリサキは容姿を幼かすんる能力でも持っているとでも言っ気ですか?」
「……俺が持っている訳じゃ──」
「大ぼら吹くんじゃねぇ!! んなば報告は受けてないんですっ!」
「(質問してきたのそっちだろ! せめてしゃべらせろ!)」
怒り心頭による彼の態度に再びイラっとする。
「ガキん子、顔も名前んも隠しているが絶対に見つけ出して殺してやりますかんね」
男はそう言い残してポケットからピンポン玉程の大きさの玉を取り出し、地面に投げる。
するとそこから大量の煙が漏れ出てくる。
「(昔見た煙幕を出す道具か)」
これに紛れて逃げる算段なのだろうが、こっちには『魔眼』で普通に見える。
出入り口の方へ駆けて行こうとする男を追う。
「(こっちが見えていないと思っている。それがチャンスだ!)」
煙幕で見えないと考えている奴は僅かに反応が遅れる。わざわざ出来た隙をみすみす逃す気はない。
時間がないのはこっちも同じ。
『麻痺』で動けなくすれば良い。
「捕まえた」
「っ!?」
別れ道ギリギリで男の腕を掴む。
魔力を一気に流して全身に『麻痺』が伝わるようにする。
「放せっ」
「──ぐぅう!」
しかし能力は発動せず、手を振り払おうとする。おまけとばかりにもう片方の手で顔面を殴りかかってくる。
避けようとしたが腕の長さの差で完全には避けれなかった。唇部分を強めに掠られた。
「(なんで麻痺が効いてないっ?)」
アンタレスの二人の時もそうだ。何故か『麻痺』が効かなかった。
まさかさっきの『ウォーミル』と同じで能力の不確定要素によって発動しなかった? でもそんな偶然があるのか?
……ならなんでキリに『麻痺』は使えた? 実は条件があった?
「(とりあえず今はこいつを捕えることだっ)」
『ウォーミル』にも不確定があるから今は物理で、だ。
掴んだ手を引いて一本背負いをする。大人の体重が全部乗り、全身を駆け巡る痛みを耐えながら投げる。
「んだばぁ──がぁあっ!!?」
地面に叩きつけた若い医師の口から血反吐が飛び出る。
両腕をそれぞれ掴んで押さえつける。全力で動けないように抑える。
「グソッ! 放せ、ガキん──なんづ力だっ?!」
暴れて脱出しようとする男をなんとか押さえつける。
色々訊きたいことがあるんだ。
「絶対に逃がさない」
「があぁーっ!? 腕! 腕が折れんるっ!!?」
力が入り過ぎているためか男の腕が限界に近いらしい。
「腕くらいでなんだ? お前、キリの肩の骨を外しただろ。脱臼した時の痛みに比べたら、このくらい屁でもないだろうがっ」
「あがあぁっ!!」
つい手に力が入ってしまう。
この男と戦闘を始めた所から全てを『千里眼』を通して見ている。そう、見ていただけだ。
殴られたりした時も肩を外されて苦しんでいた時も、ただ見ていることしか出来なかった。そんな自分が腹立たしい!
これは謂わば八つ当たりも含んだものだ。
「グソガキん子があぁー!!」
男は必死に抵抗するが中々抜け出せない。
そうこうしいぇいる間に武装した看守たちがやって来た。
「な、なんだこれは?」
「仲間割れか?」
仲間じゃない!
「貴様ら! そこを動くなっ!」
看守の声を聞きながらもまだ逃げようとする男を抑え続ける。




