正気、そして一撃
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母様……
ああ……最期に母様と話したかったな……
「……ちゅっ事んです。私の凄さが分んりましたか? さ、これでギリサギも来んでしょうし、あんたら殺しで終わんですね」
意識が朦朧とし心残りに思いふけていると、目の前の男の声が聴こえる。
その声で霞んでいた意識が僅かに正気に戻る。
「(さっきまで聞こえなかったのに。急にどうし……いえ、そんなのを考えるのは後回し。今はこの状況をなんとかしないと……!)」
意識が戻り、頭が働くようになる。
「(このまま私が殺されればリリーも殺されかねない。そうなったらどうやってかは分からないけど、東が大変な目に遭う。そんなのどっちも嫌!)」
どうしたら良い?
魔力はまだある。でもなんでか身体が動かせない。
毒?
……いえ、さっき彼は呼吸がどうのと言っていた。なら呼吸が出来れば解決する?
でもその呼吸も今は出来ない。
一体どうしたら──
「……!」
対処に頭を悩ませていると身体の一部が動くのに気がつく。
それを理解した瞬間、無駄に考察する前に『直感』を使用する。
……僅かにだけれどちゃんと動く。はず。
「(意識がもう保てない。これを外したら死ぬ)」
一か八かの状況。
『直感』で、ここはほぼ確実に動くのは分かっている。分かってはいる、けど……
尻込みしてしまうのは私がまだ未熟だからかしら。
でもこんな時に背中を押してくれる言葉がある。
──大丈夫。貴女は強い子です。
母様がよく言ってくれた言葉。
「(……うん。大丈夫。私なら出来る!!)」
気持ちの整理が着く。
首を絞められて身体はもう限界のはずなのになんでか思考は徐々にクリアに働く。
視界も狭いし霞んでいる。でも大丈夫。
「さような──」
「(これでっ!!)」
最高速度となるように『迅速』で右脚の動きを加速させ、男の股を思い切り蹴り上げる。
「ごがあぁっ!!!??」
それに反応する事がなかった男はもろに喰らってしまう。
強烈な一撃に首から手を放し、ひっくり返って倒れる。
「ごほっ! えほっ! えっ……ぁ、はあ……はあ、はあ……」
ようやく解放され、苦しさから咳き込む。
そして深呼吸を繰り返ししっかりと空気を取り込む。
空気が身体中を循環し始めたようで、視界が戻り始める。が、今度は強烈な吐き気が襲ってくる。
少しばかりからえずきが続き、苦しさに耐えながら呼吸を整える。
「ぐあっ……ぁっ…………」
そんな私の横で股間を抑え、悶え苦しんでいる男。
彼は声にならない叫びを上げながら身体を左右に転がしている。
それに身体が痙攣し、口からは涎を垂らし涙を流しながら白目も向き始めている。
そして顔には大量の汗が噴き出している。
……よっぽどみたい。
どれ程の痛みなのか分からないけれど、反応からして相当らしい。
急所であるため対人で狙った事はあるけれど、『迅速』で加速させては初めてだ。




