瞬時に、そして動かない
「危険人物なんは知っでます。んだけども私は彼を呼べれんば、そんで良いんです」
後先関係なしで、呼ぶ事が目的。
そうなると東に恨みがある人が絡んでいる?
んー……昨日他国の貴族を相手にしたばっかりだから、また外国の方?
だとしたら言葉遣いにも納得が行く。
「だからってリリーを殺させたりしない」
「ええ、別ん良いんです。死ぬんがこの娘っ子でなぐども」
男はそう言いつつもリリーに向けて何かを投げた。
「っ!」
間に合う?! 目測では分からない……
不安を感じたためすぐに『直感』を使う。
「(──っ。これ、走っても間に合わない!!)」
私とリリーとの間にはそこまで距離が空いている訳ではない。
にも関わらず『直感』は走ったとしても間に合わないと強く示している。
「(なら──)」
このままだと間に合わないなら、それ以上の速さで動けば良い!
『迅速』を使う。
自身の移動速度を加速させ、飛翔物までとの距離を瞬く間に詰める。
「これで!」
服は着替えさせられていて防具で受ける事が出来ないから、引き千切った服の袖でそれを包む。
しかし小さな痛みが右掌から伝わる。
あまり大きくない飛翔物だったから布越しなら大丈夫と考えたけど甘かった。
何か尖った物でも投げたらしい。
「ふぅー……」
それでもなんとかリリーに当たる前にそれを捕らえる事が出来た。と、安堵の息を溢す。
しかし彼の一番狙っていたタイミングはここらしく、彼は再度距離を詰めて来ていた。
それへの反応が遅れてしまう。
「良ぐ取んれましたね」
「ごあっ!?」
突き上げる様にして腹部に重い一撃を打たれる。
急所には入っていないはずなのに全身が言う事を効かない。というか痺れている感じがする。
体勢を立て直して構えるか反撃するかしないといけないのに……
「おっ、ど」
「うぐっ!」
前に崩れ落ちそうになるが、首を掴まれて止められる。
苦しい……
すぐに腕を退かせたいのにやっぱり身体が動かない。
なんで……? えーっと、確か殴られたは……あ、ウェンベルに切られた場所。
そっか。そこを打たれたから傷に障ったのかしら。
でもそれだけでこんなに動けなくなるの? 頭を殴られた訳でもないのに。
「動げんですか? ぢゃんど呼吸んをしでないからですね」
「……?」
彼が何を言っているのかが分からない。
呼吸ならしっかりしていた。
「ウェンベルんに切られだんは右胸部がら左腹んに向げででした。そんれも内臓も大分切られで」
私の負った怪我について話す彼。
その口振りはまるで彼が私の症状を知っている人間の様にしゃべっている。
「むしろ生ぎでる方んがおかしいん傷でした。そんでも切除しで治しんでみせた私は最強んの医者ですね!」
喜色の笑みと共に自慢げに告げる彼。
さらに説明を続ける彼だが、しかしその内容を聞き取る前に意識が朦朧となって頭に入ってこない。




