誰かの声、そして若い男
注意:視点変更
誰かが名を呼ばれている。そんな気がする……
聞き覚えのない声。だけどどこか知っている声に感じる……
誰だっけ……?
目を覚ますと目の前には知らない天井が広がっていた。
「(ここ、どこ……? 私、何をしてたっけ?)」
眠る前の記憶を遡る。
確かリリーがアンタレス王国に連れて行かれて、それで東が魔道具を使って助けて。
そうしたら二つの騎士団がやって来て戦闘になって……あ、そうそう。リリーの首に毒針刺されたから東がなんとかした時に、背後から奇襲されるって思たから咄嗟に動いたけど剣ごと切られて。
それで変な魔道具のせいで近づけなくなって苦戦してたら急に家に帰ってた。
東の能力で家に送られたって分かって、それで……
ここから先の記憶がないから多分気を失ったのがこの辺りだと思う。
でも家ならメルマンさんの医務室なはずだけど、そうでなくてもこんな照明のない白っぽい天井は知らない。
どこか別の場所に東が連れて行ったとかかしら?
「ぐあっ」
状況について考えていると足の方から低い声が聴こえた。
頭を少し浮かせて下の方を見る。
「!」
そこには刃物を持った若い男、そして彼の足元で首元を押さえて倒れている少し歳のいった男性。
倒れている方は白衣を着ている事から医者だろう。
そして刃物を持った男はあろう事かリリーの方へと向かう。
「(まさか……!)」
彼の次の行動が想像出来てしまう。
その刃の矛先であるリリーはまだ目を覚ます様子がない。
「(何か! 何か武器はっ?)」
辺りを見回すがこれと言って戦いに使えそうな物はない。
自分の剣も当然ながらない。
「(とりあえずこれで!)」
今まさにリリーに刃物を振り下ろそうとしている男の手元に目がけて掴んだ枕を投げる。
しかし枕は男に当たる前に避けられてしまい、壁の方へと飛んで行く。
枕を投げた事で私に気がついた彼がこちらを凄い形相で睨んでくる。
「チッ。なぢでこんのタイミングで起きんです? まだ怪我も縫合ってがら二日しか経っとんでように」
独特な喋り方……訛りっぽく聞こえる。
「貴方こそ、私の友達に何をするつもり」
少しだけ喋り方に意識を持っていかれたけど、相手の狙いを探る。
いつ襲って来るか分からないからベッドから降りて──
「大人しんしなさい」
ようとした所を狙って、刃物を投擲してきた。
大丈夫これくらい……
「──っ」
避けられる。そのはずだった。
急に左腕全体がベッドに向けて棒を入れられて固定されているかの様に腕が動かなくなってしまい、体勢を変えられなくなった。
そのせいで飛んできた刃物を避けられず、右肩を深めに擦ってしまう。
「うあっ、あっ……!!」
さらに傷を負って僅かに身体が強張った瞬間、さっきまで動かなかった腕が急に動く様になり、不意に動くようになったため力を込めるのが間に合わなかった。
肘から崩れるようにしてベッドから転げ落ちてしまう。
地面に衝突する際に受け身を取り、左肩を軸に転がり起きる。
「はぁ……はぁ……」
「ドジっ子さなんですね」
私の無様な様を見て嘲笑する男。




