三時間、そして殺人
「(……あれからどれくらい経った?)」
ブライアンにお願いをしてから体感で三時間が経過した。
しかし彼らがここに来る気配がない。
忙しいと言っていたから数時間程度では来れないのだろう。
焦っているのはこっちなので相手に催促をするのは間違っているのは分かっている。が、こっちも時間がない。
「(どうする? 牢にいる限りは催促のしようがないし……)」
例えゲートが使えたとしても脱獄をすれば信用はしてもらえない。
何度もだがそれは絶対に避けないといけない。
そうしないとタイムアップまで解決出来ない。
「(あと少し待てば来る。あと少し……)」
そう自分に言い聞かせて、首長たちを待つ。
あ、あと少しで来るかもしれないなら、最後にキリとリリーの状態を確認しておいた方が良いか。
ユキナたちも心配だ。どんな運動があったのかは分からないが、かなり疲弊している様子だった。
ブライアンを待っている間もだが、俺はその運動を課されていない。
他の牢からも何かをしている音はしなかったので、恐らく決まった階層にのみ運動が課されるのではないかと思う。
「(焦げていたり濡れていたりしたし、怪我をしていないと良いが)」
『天眼』を使い、再び医療監房へ視点を送る。
これは味方の様子を確認するためなので、ゲーテルの怒りは買わないと思う。多分。
手当てしてもらって信じるとは言ったが、一応まだ安心出来る場ではないのだから許されるはずだ。
自分の気持ちを信じて、医療監房のさらに奥の方へと視点を送る。
「なっ!?」
奥にある特別施設への通路で人が血を流して倒れている。
しかも倒れている人はキリたちの診断をしていた老医師の一人だ。
「キリ! リリー!」
目の前の惨状にこの先にいる二人の安否を心配する。
開け放たれた扉の先。上から見下ろす形の診療所。
その中を覗けば、三人の医者が血を流して倒れている。
「!」
そしてそんな彼らを殺った犯人、キリたちを診ていたあの若い医者。
彼は次の標的であろうリリーの元へと歩みを進めている。
そんな彼の血のついた手にはメスの様な小さな刃物。
よく磨がれているらしく天井からの光を反射し、煌めいている様に見える。
「なんだよそれ! なんでそうなる⁈」
急いで彼女らの元へ行かないと、と思いゲートを開こうとする。
しかし当然ながら空間に輪が出来ることはない。
そうだった! 今はゲートリングがないんだった……!
「あーっ! もう!!」
間が悪い!
急がないといけない時に限って頼りにしていた物がないのは判断が大分遅れる。
叫び過ぎたせいか、またしても壁を叩かれる。
が、今はそんなことを気にしている場合ではない。
『水流操作』で血を送る? 間に合わない。
例え直線で行けたとしても医療監房の場所は対極にある。
それに百メートル以上も血を使えば確実に死ぬ。それだと一発で仕留め損ねるか、やつに仲間がいた場合対処出来なくなる。
「(でもそれ以外に方法なんて思いつかない……っ!)」
そうこうしている間に若医者がリリーの横まで来てしまった。
そして刃物を持った腕を上げる。
頼む、誰かなんとかしてくれ……!
「リリーッ!」
己の無力さに苛まれながら、届かない声を上げる。
「──……っ!!」
が、祈りは届いたらしく若医者に向けて物が飛んで来た。
それに気がついた彼が反射的に避ける。
若医者が睨む様に視線を向けた先。そこには苦悶と怒りに満ちた表情を浮かべる銀髪の少女がベッドから身を起こしていた。




