包帯、そして祈り先
意外と傷自体は塞がりつつあったらしく、痛みはあれど開く気配がない。
たった数時間寝ていただけで傷が塞がるとは、便利ではあるがどんどん人間離れして行く肉体に少しだけ恐怖を抱く。
まあ、この世界の人も大抵人間離れしているから、どちらかと言うと身体がこっち側に近づいてきたという方が正しいな。
そうこう言っている内に右脇腹を包丁で刺されたかのように一際強い痛みが起こる。
『天眼』でそちらを見れば包帯に血が滲み始め、赤くな。
よし、あとは指を傷口に当てて指の包帯に血が滲むまでしばらく待つ。
こうすれば包帯越でも指に少量の血を着けられる。
そして指についた血を『水流操作』と『ウォーミル』で小さな刃に変える。
盛り上がった氷に押されて包帯が破れる。
先端さえ尖らせれば氷だって物を切れる。
多少皮膚を切っても良いので、口が動かしやすいように少し広めに切っておく。
「っ」
一瞬鋭い痛みが走り、その後に鈍痛と熱を発する。
見ると列になってぷっくりと血が浮き出ている。
それを包帯で拭う。
「あ、あー……本日は晴天なり。よし」
最後に発声練習をする。
と言ってもさっきまでしゃべっていたので問題なんてないが。
会話はこれで大丈夫だかな? あと出来そうなことは……
「思いつかない。となるとブライアンを待つしかないか」
自分でやれることはもうない。
いや、せいぜいやれるのは時間切れにならないように祈ることくらいだろうか?
でも誰に祈れば良いんだ?
普通に神様に祈っても助けてくれるか怪しい。というか助ける気があるならすでに助けて欲しいし、なんなら念話に出て欲しい。
しかしだからと言ってこっちの世界の神であるゲーテルに祈っても聞き入れてもらえるとも思えない。
神罰なのだから。
そうなると祈ることすら出来ない。
あ、トールさんにお願いしようかな? 正直神様より全然頼りになる。
「(トールさん、お願いします。どうか今回の件が円満に終わって、皆が無事に助かりますように……)」
天に向かって合掌をし、祈りを捧げる。
これで気持ち的には十分だ。
あとは……
「何かあるかな?」
思いつく限りのことはしておきたい。
そう考え込んでいると、視界の端に自分の手が見える。
考え込んむ際に口元に手を当てる癖があるため、自ずと手が見える訳だが。
その手はとても小さい。
よくよく考えれば今の俺は子供の姿だった。
「あー、能力についても把握しといた方が良いな」
こんな姿にされたのだ。これについても考えておく必要があるだろう。
次があるかは分からないが、似た能力は存在するだろう。
ならそれについて能力の把握と対処を考えておくべきだ。
もしかしたら移動中に襲ってきた連中が仲間を連れてまた来るかもしれない。
そしてその中に似た能力者がいるかもしれない。
全部に配慮は無理でも、分かった能力については考え得くだろう。
とりあえずこの身体になる前からの状況を思い返してみるか。
襲って来た連中のは、首長と話してから思い返して大体整理が着いたし。




