治せない、そして傷を開く
しかしもう治癒核は持っていない。
宝物庫の中にあった最後の治癒核も襲われた時に使ったからな。
薬では即効性がないからダメだし……
「(さっきの医療監房になら治癒核もあるんじゃないか?)」
ふとそんなことを思いついてしまう。
しかしすぐにその思考を破棄する。自分からも信じて欲しいって言ったのに犯罪を犯せば信頼なんてなくなる。
もう一度宝物庫の中を探してみるか。
動かすのも辛いが走る痛みを堪えつつ腕を動かし、宝物庫を探る。
しかしいつもの位置に宝物庫がない。
不思議に思い『天眼』を使い正確な位置を確認する。
「えっ?」
普段右後ろの腰に着けている宝物庫がない!
慌てて反対側にも視点を移すがやはりない。
「(どうして? まさかあの時落としたのか?)」
襲撃された時のことをもう一度思い返すが、記憶にある限りではしっかりと腰に着けている。
となると気を失った後に盗られた? でもあの時は撤退したのを確認している。
……いや、後から誰かに盗られた可能性の方が高いか。
倒れた後に通った誰かか、それとも助けてくれた──はさすがに失礼だ。
あとは……あ、堅牢署に入れられる時に没収されたとかもあるな。
むしろそっちの方が可能性が高い。刑務所でも身体検査とかあるし。
そうなるとここのどこかに保管されているはずだから、万が一を考えて見つけておくか。
仕方がないので治療は諦めよう。
話し難いのも舌が原因なのではなく口を包帯で覆われており、それにより上手く口を動かせないのが原因だ。
だからそれさえなんとかすれば会話は問題ない。
その時に宝物庫についても訊こう。
そうと決まれば口の周りの包帯だけ外そう。
「(宝物庫がないから水儒核は出せないけど、血でなんとか出来る)」
これだけ怪我をしていればどこかしらの傷を開ければ少量の血を出せるはず。
それを利用すれば包帯を切れる。
こんな方法あの襲撃を経験していなかったら思いつかない荒技だと思う。
怪我の功名だな。
「(さて、覚悟を決めよう)」
血を流すまでが地獄なので覚悟を決める。
「(──……待って。そういえばゲートリングはあるのか?)」
しかし寸前の所で思い止まる。
堅牢署に収容される前に宝物庫が没収されたのならいくら指輪とはいえ没収されたんじゃないか?
普段は指にハメているけど今は包帯で覆われているから見えない。
そして常に感じている鈍痛のせいで指にハメている感覚も伝わってこない。
そもそも指輪ってどうしたっけ?
えーっと確か……血と吐瀉物が混じった中に落ちていて、それを水で洗浄してから手元に持ってきて指にハメれそうになかったから手に持って……その後は憶えていないな。
ということは途中で落としてしまったかな。
運良く拾われていれば嬉しいが、どちらにしても手元にないということははっきりした。
つまり血を流してもさらに腕を動かす必要がある。
それを想像するだけで心がすり減りそうだ。
「(ま、すり減るくらいなら良い。全然良いな。それで今回の件を片づけられる一歩になるならそれで良い)」
こんな誤解で逮捕されて皆に迷惑をかけている案件なんて、早く終わらせるに限る。
それで……
いや、今は考えない方が良いな。
必要のない思考を頭から捨てる。そして今やるべきことに向き直る。
「(さ、数時間振りに身体を動かしますか)」
まずは上体を起こす。
これでどこから血が出ているか探しやすくなった。
もちろんこれだけで全身に針を刺されているかのように痛い。
一番力を入れた腹筋に関しては内臓に紐をくくりつけ、それを力の強弱つけて引っ張られている感じだ。
次にベッドから降りて立ち上がる。
どこまで動けば傷が開くか分からないが、とりあえず牢内を歩き回る。
投稿が遅くなってしまい申し訳ございません。




