居座り、そして水浸し
「条件はそれ一つで良いのか? ま、本当に期待されても困るが、他にあれば聞くぞ?」
首長がどうか分からないのは仕方ないが、どこか彼は対応が軽い気がする。
条件は他にもありはする。
メルマンさんやサナたちの安否の確保。
さらに望めるなら全員を家に帰して欲しい。が、それも誤解を解けば解決すると思う。
それに望み過ぎて首長と会う機会を失ったら元も子もない。
だからこれ以上は要求しないでおこう。
「大丈夫。それだけで良い」
「そうか」
するとブライアンは奥の牢に背を預け、こちらを向いた状態で座る。
おまけに一息ついて力を抜いている。
……は? 何をやっているんだ? こいつは。
「おい。なんで座る。首長と会わせてくれないのか?」
「あ? ……ああ、確認はあとでだ。しばらくはここにいる気だ」
「……なんのために?」
「少しゆっくりしたくてな。気にすんな」
手で払う仕草をし、目を閉じる。
そしてしばらくして寝息がし始める。
「マジか……」
その様子に呆れて声が出る。
まあ、会えるように約束はしたから、今はそれを信じるしかない。
とりあえずブライアンが目を覚まして首長との面会を取りつけてくれるまで時間が出来た。
さっきの声について探れる。
「(どうせなら彼に地下十階について訊けば良かったな)」
過ぎた条件まで行けば断られたかもしれないが、堅牢署内についてなら聞けたかもしれない。
『千里眼』のことがバレているのなら内装について知っていることも知られていそうだし訊けるとは思うが。
いや、それこそメルマンさんのことを──
……今さらだな。諦めよう。
先程の牢まで『天眼』を向ける。
「!」
十分程度しか経っていないが、牢にいる男はまるで上から水をかけられたかの様にびしょ濡れになっていた。
「(この短い間に何があったんだ⁈)」
水滴が髪から滴っているし頬や身体を伝っている。また、壁や手枷などからも水滴が滴っている。
つい数分前に水浸しにあったのだろう。
しかし底の方に水は溜まっていない。
変わらずポイズンスライムはいるがそれ以外は何もない。
「……?」
よく見るとスライムの周りの壁だけ途切れるように水滴がなくなっている。
ただそれくらいしか分からない。他に何かあるのか?
『魔眼』でスライムの状態を確認する。
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ポイズンスライム:散歩
Lv.50
特殊:猛毒の身体。中心に核がある。
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どうやら起きたらしい。
しかし……散、歩……?
『魔眼』の状態の表示とその下で微動だにしないスライムを交互に見る。
何度か「散歩」という表示は見たことがある。
その時はしっかりと歩いていたのだが……そもそもスライムが散歩をしているイメージが湧かない。
新しい疑問が二つ。すでにあった疑問よりどうでも良いが、しかし気になる内容の疑問。
この建物内では本当に何が起こるのか分からないし、下に広大な造り。
やっぱりダンジョンだな。
『お前は神を信じるか?』
などと考えていると再度あの声が頭に響く。




