部屋の中、そして声の仕方
すぐに『天眼』を解除し、自分の牢内上空に再度『天眼』を発動する。
しかし牢の中に変化はない。
俺がベッドで寝ている以外何もないし、誰もいれない。
念のため『魔眼』に流す魔力を多くして魔道具も警戒するがなんの反応もない。
透明になる魔道具は使っていない。
しばらく見張っているが何も起こらない。俺に近づいて来る気配もない。
「(気のせい……のはずないか。しっかり聞こえたもんな)」
幻聴にしてははっきりしていた。つまり実際に聞いた声。
しかし部屋の中には誰もいない。
そしてしばらくしても何も起こらず、さっきの声も聞こえない。
聞こえたのは……あの牢を覗いた時。厳密に言えば視点を落とそうとしていた時だけど。
加えて今まで檻を覗いていてもそんな現象は起こらなかった。
だから恐らく全体を見張っているとかではなく、あの牢か階層だと思う。
「(よし、だいぶ冷静に状況が整理出来始めている)」
このまま今のがどこの誰なのかを突き止めないと……
もしあの場を見張っていた何者かが今回俺に冤罪をなすりつけた張本人、もしくはその仲間の場合そいつがどの程度の範囲で監視しているのかを把握しておかないとこっちの行動を監視される可能性がある。
だから最低でも範囲や能力の把握。
ベストはそれに加えてこの相手が何者で、どういう目的で声をかけてきたのかを知りたい。
「(……そういえば声がした時の感覚。あの感覚は神様と念話をしていた時に似ていた気がする)」
そこでふとあの時に感じたことを思い出す。
念話をしていると頭の中に神様の声が響いている様な感じなのだが、今回のもそんな感じで語りかけられた。
となると神様とは別の神様、それこそこの世界の神様とかか?
……いや、それなら『神を信じるか?』なんて訊く意味もないだろう。
精霊曰く俺からは天使であるトールさんの力を少し感じるらしいから、他の神様ならあの神様か天使の何かしらを感じられるだろう。
それにあのタイミングである必要もない。
それこそ神を信じているか、と訊くなら俺が困ったタイミングの方が信仰させやすいだろう。
だからその線は薄い。
となると一番可能性が高いのは固有能力だろう。
そして該当しそうなのは十階層の三人。
あの場にいた魔獣が使った可能性もありはするがかなり低い。
スライムがしゃべるイメージがないからだが、実は高レベルだとしゃべったりするのだろうか?
実際古竜やドライアドはしゃべれている。
とりあえず頭の片隅に置いておくとして、今は人間の方で考えよう。
あの三人の内の誰かが俺に能力を使って頭の中に……待て、なんで声をかけれた?
例え誰かが能力を使って頭の中に声を送ってきたとしてもなんであのタイミングで、しかもあの階層と離れ過ぎている俺に声をかけれた?




