武器、そして完成
ギルドで冒険者登録を終え、行きはゆっくりと見て回れていなかった街中を見つつ甘味に戻っている。その途中だった。
ギルドから二百メートルくらい歩いた所に武器屋があった。
看板には「武器屋 オニテツ」と書いてある。
「(武器か。今度からギルドでクエストを受けるつもりだし、何か武器を買っておくか)」
そう思い、武器屋オニテツの扉の前まで行く。
この武器屋は正面が横に七メートル、縦十メートル半くらいで一軒家程の店だ。
カランカラン
扉を開けると鐘が鳴る。
なんか鐘のついた店、多くない?
「いらっしゃい。何かお探しで?」
店に入るとレジの後ろで座って何か作業をしていた男性が顔だけ上げて挨拶をする。
声は低くて渋い。歳は五十代前半くらいかな?
顔は鬼のようにギョロリとした赤色の眼に髪と同じ薄い赤色の無精髭。髪型は角刈り風に整えられている。
レジでよく見えないが、肩から伝う二の腕から予想するに腕はかなり太い。男性の掌を広げたくらいはある。
そして座っているので座高から考えて、背はだいたい百八十後半はあると思う。
金棒を持たせてトラ柄の腰パンを着せたらまんま鬼みたいな店員さんだ。
「えっと、クエストで使う武器を探していて、適当に見せてもらっても良いですか?」
「良いけど、壊すなよ」
「は、はい」
俺こう見えて十六なんだけど、そんなに子供に見られやすいのか?
自身の見た目に対する疑念を抱きながらも目的である武器を探す。
「(……うーん、結構数があるし素人だから初めに何を使ったら良いのか分からないな。一応学校の体育で剣道をやっていたから刀にでもしようかな?)」
方針を定め、刀が並べられている場所を探す。
武器は種類毎に棚分けされていて、壁は全部武器で埋まっている。
また壁にある物だけでなく、壁の近くには三個の樽が置いてある。その中には色々な種類の武器の柄が出ている。
棚には槍とかハンマーとかもあるが、扱える気がしない。
次に目が留まったのは剣だ。異世界なら剣が定番なのかもしれないが、剣道の形は剣と書かれているが、日本なので刀での立ち回りだ。
なので刀の方が良いだろう。後、他と比べて刀の方が安い。
しかし刀だけと言っても十五本くらい並べられている。
そんな中から試しに一本、適当に一本を選んで手に取る。
「っ!」
しかし手に持ち、棚から離した瞬間一気に手の重みが増す。
本物だけあって重い。幸い完全に持つ前に気がつけたので、地面に落とす事はなかった。
両手でしっかりと持ち、地面で支えながらゆっくりと鞘から五センチくらい抜いてみる。
刃の側面に俺の顔が映るくらい磨かれている。
刀の事はあまり詳しくないが、これはかなり良い物なのではないか?
流石に日本刀とかみたいな芸術的な物とまでいかないが、鈍らではないだろう。いや、素人だから分からないけど。
しかし本物を見てみて改めて思ったが、初心者の俺では刀は早い気がする。
剣道を習っていたから刀をっと安直に選んだが、片刃は慣れていないと扱いが難しいと思う。
だから使うのならもう少し扱いやすい物の方が良いだろう。
うーん、でも他に扱いやすそうなのって……分からん! よし、店員さんに訊こう。
こういう時はプロの意見を聞くのが一番だ。
「あのぉー、すいません?」
「……」
早速訊こうと思い、未だレジの所で何かをやっている店員さんに声をかけるが反応がない。
あれ?
「あのぉ、すいません」
「…………」
聞こえなかったのかと思いもう一度声をかけるがやはり反応がない。
もしかして作業に夢中で声が届いていないのか?
だったら……
「すぅー……あのっ! すいませんっ‼」
「うおっ! な、何だよバカデカい声出して」
少しムキになって精一杯の声で呼びかける。
するとようやく声が届いたらしく、驚いた表情でこっちを見てくれた。
「すいません。呼んでも返事がなかったので……」
「ああ、そうか。悪い悪い。で、何だ?」
「初心者向けの武器ってありますか? 扱いやすいので」
「そうだなぁ……戦闘とかを考慮して、おまえさんどんなのが良いんだ?」
「出来れば刀とか剣とかの方が良いです」
「うーん……だとしたら片手剣なんてのはどうだ?」
「片手剣?」
片手剣ってあの名前の通り、片手で扱える剣の事?
「多分初心者が使うならそっちの方が良いと思うぞ。軽いし、応用が利く」
「なるほど、分かりました。片手剣はどこにありますか?」
「剣のすぐ隣にあるよ」
そう言うと店員さんがさっき俺がいたところの横を指差す。
確かに片手剣は右から刀、剣、片手剣と置いてあった。刀と剣しか見ていなかったな。
片手剣の前へ行き、刀同様適当に選び地面で支えながら鞘から五センチくらい抜く。
青色の刃がキラリと輝く。
十本ある中から次々と手に取っては中の色を見て行く。鞘にも色があるので鞘でも判断出来そうだが、時々中の色と違うのが入っている。
そんな中で色合いが少し気になったのがあったので、一旦全部抜いてみようと試みる。
「重っ‼︎⁉︎」
「当たり前だ」
抜いた剣は刀身が八十センチ程。
薄鼠色の刀身には、根元から腹にの半ば目がけて三角形のプレートのような物が一体となっている。底辺八センチ、高さ十センチ程の白色のプレート。
なんのためにあるのか気になるが、面白いデザインだ。
しかし軽いと言っていたが、どこが軽いのか。
まあ、でもこの色合いは良いな。これにしよう。
「これください」
「あいよ。でも悪いんだが明日の昼くらいまで待ってくれねぇか? ある仕事が滞っててな」
「良いですよ、別に」
はっきり言ってお金を払うだけだからあんまり時間はかからない気がするけど、置いてある物を買うだけなのに明日まで回す店ってどうなのだろうか……まぁ良いや。
明日もう一度来る事を伝えて店を出る。
「つい寄り道しちゃったな」
店から離れ、帰り道を歩きながら独り言を呟く。
「あ、忘れる前に店を探さないとな」
昨日の夕方前に決めた服や下着、日用品など。それらを買っておかないと服が替えられないし、満足な生活が送れない。
どこにその手の店があるのかを探すために街の中を見て回る。
「(えっと、まずは生活品からかな? シャンプーや石鹸、タオルにティッシュ、紙束や筆記用具とかが欲しいけど、この世界にそういうのってあるのか?)」
疑念を抱きながら歩いていると「雑貨屋 ソシャル」という看板が目に入る。
進行方向に二、三十メートルくらい行くとY字路の曲がり角の分岐の間にその店はある。
「(雑貨屋か……あるかな?)」
少し早歩きで雑貨屋の前まで行く。
大きさはさっきの武器屋とほぼ変わらない。
しかし雑貨屋は今までの店とは違い、正面にはドアや暖簾などが何も付いておらず、オープン状態だった。
なので、店内がいくつかの棚で商品が分けられているのを確認する事が出来る。
でもこれって泥棒とかに狙われたりしないのか?
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」
店の前で立ち止まって中を見ていた所に店員らしき男性が近寄って来た。
二十歳前半くらいの男性は制服ではなく、普通に白色の半袖に紺色のジーパンと街を歩いている人達と変わらない普段着である。
カナさん達と同じで決まっていない店なのかもしれない。
「えっと、日用品を探しているんですけどありますか?」
「はい。こちらへどうぞ」
手で進行方向を示しながら中へと誘導してくる。そしてこちらが動けば先導して商品まで案内してくれる様子なので彼に続く。
中に入ると外から見ていたよりも商品が多くあるように感じられる。それと少し薄暗い。
「こちらが生活用品になります」
店員さんがある商品の棚で止まって左へ退き、左手で商品を指差す。
そこには俺がよく知る、ティーカップや皿、木のスプーンやフォーク、女性の髪留めや櫛などが置かれている。
「おぉ……あ、えっと、どこだ……」
棚である程度商品分けがされているといっても後ろにある棚の方も日用品で埋め尽くされており、さらにその隣もとなると探すのに時間がかかる。
それに後ろで店員さんがこちらを見ているのも少し……
気持ちが急いてしまうから別の所に行って欲しい。
「えーっと……あ、あった!」
棚の一番下の段に「頭、身体洗いにボシュレット」と書いてあるボトルがあった。
ボトルはキャップではなく、栓で封がされいる。
とりあえずこれを二本は買っておく事にして、料理はカナさんがやってくれるから食器はいらないし。
あ、タオルも買っておこう。
「タオルはー……」
「それでしたらこちらです」
再び商品を探そうとしたら、店員さんが上の段の方を指さして教えてくれる。
それを手に取ってみるが、やっぱり触り心地がイマイチだ。
とりあえず、十五枚くらい買おう。余分にあっても困る事がないし。
さて、そろそろお会計にするかな。二つしか選んでないけど。
レジへ行くと、さっきまで俺に付いて来ていた男がレジの裏の方へと回る。
「お願いします」
「はい。ええっと……合計小金貨一枚と銀貨四枚になります」
「ではこれで」
「はい。丁度いただきます」
「……あ」
提示された金額を払ったタイミングで購入品をどう持って行くか、という疑問が湧く。
「すいません。これを入れていける物、袋はありませんか?」
「それでしたら……あちらの鞄など如何でしょうか?」
俺の質問に店員さんが今いる位置とは反対の壁際を指し示す。
そこにはバスケットのような鞄がいくつか置いてある。
うーん、求めているタイプの商品じゃない。スーパーの袋やエコバック的な物が欲しいのだけど……
「えっと、革袋みたいな入れ物はありませんか?」
「それですと小物入れ程の大きさの物しか当店では取り扱っておりませんね」
申し訳なさそうな顔で返される。
「ただそういった物をお求めでしたら、服屋に行ってみては如何でしょう。そういった物はあちらの方が取り揃えていると思いますので」
仕方ないなと諦めて買った商品を手にすると、店員さんが良い情報を教えてくれる。
なら次は服屋だな。替えの服も買うつもりだったしちょうど良い。
「ありがとうございます」
彼にお礼を告げて店を出る。
「ありがとうございましたー!」
背後に店員さんの声を受ける。
とりあえず昨日の服屋へと向かう。
雑貨屋と服屋はそこまで離れておらず、数分もしないうちに着ける。
中に入れば、昨日と同じ店員さんがいたので、また服を何着か選んでもらいそれを買う。さすがに下着は自分で選んだけど。
それと雑貨屋の店員さんが言っていた通り鞄が置いてあった。
大きめの鞄でも良かったが、冒険に出るのに大きい鞄は持って行けないが、かと言って小さくては物を持って行けない。
なので少し大きめのボクサーバックを選んだ。
五着と下着、ボクサーバック全部合わせて小金貨四枚と銀貨五枚となった。
必要な日用品などはだいたい揃ったはずなので、そろそろ甘味に戻る。こんなにまとめて色々と買ったのはいつ振りだろうか。
買い物に満足してホクホク顔で甘味に戻る。
「カナさん、戻りました。すいませんが、朝食の残りをお願いします。先に荷物を部屋に置いてくるので適当な席に置いておいてください」
カナさんに朝食の残りを頼んでから部屋に向かう。
買った物が多いので一度部屋に置きに行く。
買った物たちをベッドの上に置いてから下に下りる。
カナさんがすぐに要望に応えてくれ、カウンター近くの席に食べかけのパンケーキが置かれている。
思った以上に長引いた外出のせいで、案の定冷めてパサついている部分があった。
それでも美味しい。
ただパンケーキもそれにかかっているハチミツも全然甘くはないのが少しショックだ。
そんなもう朝食でもあり昼食でもあるパンケーキを食べながら思った感想は以上である。
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色々調達した翌日。今日はしっかりと朝食を食べてから甘味を出る、はずだった。
いつも通り朝に目が覚めたのだが、昼くらいまでやることがないと思い少しだけ二度寝をしようと考えた。
それが間違いであり、次に目が覚めた時には約束した時間より少し遅れていた……と思う。
時計がないので時間の把握が難しいが、日の位置からしてすでにお昼だろう。
つまり遅刻である。
「やばっ‼」
急いで着替え、走って武器屋オニテツを目指す。
結局今日も朝食はなしである。
お昼でごった返す人を避けながらほぼ全速力で駆け抜ける。そしてしばらくすれば武器屋の看板が見えてくる。
扉の前まで来ると、一先ず息を整える。ある程度落ち着いてから扉を開ける。
カランカラン
扉につけられた鐘が鳴る。
「すいません! 遅れて!」
「大丈夫だよ。ほれ」
遅刻して入ってきた俺に対して店員さんは悪い顔を全くせずに鞘を渡してくる。
そんな彼に「ありがとうございます」とお礼を言ってから、その鞘を受け取る。
うおっ! 相変わらず重たいな。
店員さんが手を離した瞬間、手にグッと重りが乗る。
「中が間違ってないか確認してくれ」
「分かりました」
店員さんに促され、昨日の方法で少し鞘から剣を抜いてみる。
あれ?
「なんか昨日より光っているって言うか、刃が鋭くなった気がするんですが?」
角度を変えて刃を横から覗き込む。
「ああ、昨日待たせてしまった詫びで研いでおいたが、迷惑だったか?」
「そんな事ないです。ありがとうございます」
「そうか、なら良かった」
店員さんが少しだけ笑う。
うーん、怖い。鬼は健在である。
「じゃあ、代金を……」
「そうだな。ええっと、小金貨四枚と銀貨六枚だな」
「はいこれで」
革袋から提示された額と同じ枚数の硬貨を渡す。
「丁度だな。毎度……っと、忘れる所だった。ちょっと待ってくれ」
剣を持って帰ろうとしたタイミングで呼び止められる。
振り返れば店員さんが何かを探している。
「なんですか?」
「武器を買ってもらったら、そいつに名前を書いてもらわないダメだったんだ」
「そうなんですか? 分かりました。ただ代筆をお願いしても良いですか?」
「ああ、構わないよ」
探し物が見つかったらしく、動きが止まる。
そして店員さんが了承してくれたので名前を伝える。
「桐崎 東です。あ、桐崎が家名で、東が名前です」
「ああ……私はガールだ。剣の修理なんかもやっているから、なんかあったらそん時はまた来てくれ」
顧客リストと思われる紙に伝えた名前を書きながら自己紹介をしてくれる。
「はい。その時はお願いします」
利用は増えるかもな。
ここで武器を買ったのもあるが、ガールさんの心意気が嬉しい。
「ん?」
いつの間にかレジの上に鞘と同色の茶色の革ベルトが置いてあった。
それを手に取り、店員さんにこれがなんなのかを問う。
「あの、これって……?」
「それを鞘に通して、持ち運ぶのを楽にするんだ。身体に固定しないと、ずっと片手で持ってる羽目になるからな」
「なるほど」
言われた通りに鞘にこれを通すための細工部分に通し、剣を担ぐ。ずっしりとくるが、持ち運びは確かにしやすい。
そして説明を聞いてこれが剣ホルダーなのが分かった。
最後に「また来ます」と言って店を後にする。