最奥、そして内装
今までの列は牢のすぐ後ろが壁という造りで、この丁字路以外はそのままの造りとなっている。
次の列に出るには三メートルの壁を抜けるしかない訳なので、医療監房からの脱獄も無理そうだな。
この丁字路の先はそんな壁と壁の間を抜けて行くようだ。
「(この医療監房といい、キリたちの収容といい何故こうも別の場所に置くのか。いや、医療監房はまだ分かるが、二人は他の囚人と同じ様に牢の中で良いだろ)」
お陰で探すのに手間取ったのだから。
医療監房での二人の場所に不満を抱きつつ、丁字路を曲がり霧を辿る。
二十メートル程進んだ先には分厚めの扉、そしていつものように看守が一人で警備をしている。
しかしその武装は甲冑姿だ。武器は初心者用ではなくそこそこ高そうな見た目の槍を携帯している。
随分と厳重だな。
そんな厳重な警備をすり抜けて中に入る。
六十センチの扉って、金庫か?
思ったよりも分厚い扉に呆れる。
扉を抜けた先には左右に分かれた廊下、そして前にはガラスには劣るが透明度のある板を張った窓がある。
また床や天井、壁さえも白のコンクリートに近い材質で出来ている。
牢はレンガや土などだったから素材から違うが、ここまで来ると世界観が違う。
王宮にはしっかりとしたガラスが使われていたからあることは知っていたし、このタイプのガラスも大きめの店になら使われていた。
しかし王宮は豪華絢爛という感じが強く異世界という感覚は失わなかった。
まあ、一般市民からしたらそんな王宮内こそ別世界に感じるがそこは置いておこう。
でもここはそんな飾られた空間ではなく、この世界では感じなかった既視感のある空間。
「……」
視点を進め窓を覗く。
眼下に広がるのは、だだっ広い部屋の真ん中に二つのベッドがあり、その周りには医師らしき人物が三人。
かなり高齢の男性、初老くらいの女性、三十手前くらいの男性。
それぞれが左のベッドで眠るリリーの診察をしている。
反対のベッドではキリが穏やかな顔で眠っている。
ここは地球の医療ドラマで見る様な、上から手術室を覗く場所に似ている。
「(まさか異世界で地球の様な内装を見ることになるとは……)」
その内畳なんかも見つかったりして。さすがにないか。
キリは術後だからか顔色は以前より良い。
しかしリリーは変わらず何かによって苦しんでいる。
「(医師たちなら何かに気がついていないか)」
視点を医者たちの元へ近づける。
若い医師が手にカルテを持っているので拝見させてもらう。
嘔吐と下痢、痙攣、呼吸不全。リリーの症状は変わっていないらしい。
さすがに上へ報告を送った後に具合が良くなるなんてことはないか。
「(……うん。二人の位置は分かった。あとは上かどこかにいるサナたちを一刻も早く探すだけだ)」
二人の容体と場所は確認出来たので、次にサナたちの場所を知っておく必要がある。
ただ一階から三階まで見て回った中に皆はいなかった。
恐らくこの医療監房のような壁の先にある牢に囚われているのだろう。
人が多いせいで『魔眼』での追跡は出来ないかもしれないが、適当に壁を進むよりは見つけられるとは思う。
それにしてもなんで俺の仲間はそんな見つけ難い場所に? 医療監房があそこにしかないからキリとリリーがあそこなのは分かる。
でもサナたちはまだ牢も空いているのに別の場所に収容されている。
なんでだ?
「(……あ、俺から隠すためか)」
その理由の原因を見つける。
もしかしなくても俺なら皆を助けるために侵入して来る。だからそれを想定して隠したのか。
ならもっと下に隠した方が見つけるのにも助け出すのにも時間がかかるのに。
『千里眼』やゲートがあるから関係ないが。『千里眼』に上も下も関係ない。
ん? 下……?
「(そういえば首長を追う時に見かけた階段。確か下にも続いていたような……)」
おぼろげな記憶を辿る。
つい数十分前のことだが、何しろ首長しか見ていなかったからな。




