先を、そして医療監房
右を見ても左を見ても壁が続いている。
「なんでないんだよ……」
思わず独りごちる。
道中にそれらしい場所はなかった。ただ完全に全部を見た訳ではないから、もしかしたその残りの部分に……それならこの壁を辿て行けばあるかもしれない。
いや、それよりもこの壁の向こうにあるかもしれない。
地下ならいくらでも拡張が出来るだろうからその可能性は高い。
『天眼』の距離をさらに伸ばして壁を抜ける。
三メートルという厚い壁を抜けると、そこには一、二階層の牢と変わらない大きさの牢が並んでいる。
しかし上と違い収容されている数は定員数通りであり、おまけに全員が簡素ではあるがベッドで寝ている。
「良かった。ちゃんとあった……」
それらしい部屋を見つけられたことに安堵する。
ここを見つけられればあとは『魔眼』で霧を追えば良いはず。
例えキリやリリーの霧を見つけられなくても、人が多く通った道を辿って行けば自ずと医者を見つけることが出来る。
リリーの状態からして定期的に検診に行くだろうからそのあとを追えば良い。
カルテでもあればさらに楽に見つけられる。
まあ、一番は霧で追えれば良いのだが、あいにくと二人の霧は見えない。
恐らく医者が訪問する形で診察しているから霧がないのだと思う。
彼女らは重症だから下手に動かせないだろうし。
「(あれ? でも収監されたのは今日だよな。それなのに霧がないのはなんでだ?)」
いくつも霧が漂っている方を進んで行くが、その中に二人の霧の色は見当たらない。
それ所か周りの道や他の牢の中からも霧は見当たらない。
意味が分からないでいる内に牢が続く道の途中に部屋があった。
中を覗いてみると白衣を着た中年の女性が、手に枷をハメた三十代前後の女性の怪我を診ている。
部屋の中には男性の看守が一人と女性の看守が一人。
男が扉側を女が奥の薬剤などが入っているであろう瓶がたくさんある棚の前にいる。
装飾は特になく、薬品を置く棚と仕事机とその上に乗る大量の書類や別の書類が紐で綴じて置かれている。
これぐらいしかない。
内装やそこで患者を診ている所から考えて、ここが診察室でまず間違いないな。
しかしキリやリリーの霧はここにはない。
部屋から視線を戻し、廊下の続きを見る。
同じような部屋が交互に二つあり、その先は左右に分かれる廊下が続いている。
その廊下はさらに霧が増え、廊下が霧で埋まっている。
もうこの複数の霧の中から目的の人物の霧を探すのは至難だ。
多い中でさらに霧が多いのは……右か。
とりあえず多い方を辿って行く。
すると五十メートルも行かない所に三重の檻が着いた出入り口がある。
その前後に鉄の棒を持った看守が二人ずつ立っている。
行き止まりだと思った所からしばらく行った所に医療監房に繋がる場所があったのか。
『千里眼』で無理矢理先の様子を覗けたが、本来ならここを通らないと様子は見れなかった。
良い能力を手に入れられた、と改めて思う。




