既視感、そして移す
それにしても……
「(早い早い! 処理するのが早い!)」
こっちが医療監房の書類を読んでいる内に首長は、先程読んだ書類に判を押し、シーサーペントと家の家宅捜査のと、アンタレス王国からのに対する返事を書き終えている。
次に彼女は書類の山の方にも手を伸ばし始める。
大半の書類は判を押して終えるため、こっちが必死に読んでいる最中に目の前から消えて行く。
でもこれだけ大量に書類が来るなら確かにこのスピードで見ていかないと終わらないのだろう。
そんなことを思っている間も書類の山はどんどん減って行く。
「(おおぉ……物の数分で三分の一が消えた……)」
圧巻に取られていると、ふいに首長が手を止める。
すると扉が開き、一人の男が入って来た。
薄めの茶色のショートヘアをした三十終わりか四十歳程の男性。
冴えない顔に短めの下顎髭。
王都の街を散歩しているお父さんと言われても違和感はない。
しかし身体はガッチリと鍛え上げられた肉体で、エネリアの街の質屋のボルグさんや武器屋のガールさんたち程筋骨隆々のムキムキではない。
が、それでも体格の良い冒険者たちみたいな肉体であり、それはシャツの上からでもその逞しさが伝わってくる程だ。
時間的に考えて彼がブライアンなのだろう。甲冑を脱いだ姿は初めて見た。
ただ突入班の隊長を勤めていた割には疲れ切ったサラリーマンの様にも見える程その顔から覇気を感じられない。
何か話し始めたな。
こういう時も情報を得たいな……誰かに読唇術を教えてもらえないか、今度ポールさんに訊いてみよう。
うーん、怒ったり笑ったりしているが何を話しているのか分からない。
これ以上彼女らを見ていても何も分からなそうだし、皆を探しに行くか。
「(ん? 何か状況が変わった)」
しばらく見ていても変化がなさそうなので視点を変えようとした所で彼らの雰囲気が変わる。
さっきまでの談笑的な雰囲気はそこにはなく、緊張の面持ちであるブライアンと笑顔の首長。
どこか既視感のあるその光景に少しだけ俺の動きが止まる。
あれって怒らせた時の雰囲気だよな……?
片方が笑顔で片方が緊張して目を泳がせ、冷汗までかいている。
これ絶対ブライアンが何かやらかしただろ。
するとブライアンも諦めたのか肩をすくめて話し始めた。
彼らの様子が面白いのでもう少し見ていたいのだが、これ以上情報を得られそうにないので今度こそ視点を変える。
とりあえず医療監房を探そう。
キリの方は手術後のことが書かれていないのはただ様子見をされているのか、それとももう大丈夫だから詳しく書かれていないのか。
どちらにしてもその確認もしなくてはならない。
それとリリーの状態が悪い場合は意地でも脱獄した方が良いだろう。
ここで治せないのだから脱獄してでもダンジョンに行く必要がある。
ただそうなるとこの事件に対処することが出来ない。
詰んでいるな。




