ウミヘビ、そして医療監房
ただちょうど良いタイミングで仕事始めてくれた。
書類の中に今回の件やキリたちの場所や状況が書かれた物もあるだろうし拝見させてもらおう。
『天眼』を彼女が今目を通している書類が見える位置に移動させる。
確かさっき廊下でもらっていた書類だよな? これは。
えーっと、「シラスルコ港湾に出現中のシーサーペントの急ぎ討伐願い」「キリサキ家家宅捜査の再度執行命令」「アズマ・キリサキのギルド登録に関して」「アンタレス王国からの報告書」か。
色々と嫌なのが見えるな。
シラスルコ港湾ってどこだ? 俺が知っているのはアラスコ港湾だけなんだけど。
そこにシーサーペントが現れたから討伐して欲しい、と。
シーサーペント……確か超巨大なウミヘビみたいな容姿の魔獣。
そういえば昔に、シーサーペントはリュウグウノツカイなのではってテレビ番組を見た記憶がある。
その時に想像の絵も流れていたが、似ているような似ていないような微妙な感じだった。
王都にも一応港からの討伐依頼は来るが、最近行っていなかったからシーサーペントが出ていたのは知らなかった。
しかしそれを何故警邏に? 普通は冒険者ギルドに依頼するはずだが。
それと気になるのは「アンタレス王国からの報告」と横の書類の山の一番上にある「医療監房から治療経過報告」か。
アンタレス王国からのは……“ケルレン”という人からで、アンタレス王国で俺とサヘルとの公判を行った時の状況が書かれている。
野次馬が結構いたからその中にいたのかもしれないが、内容がこと細かに書かれている。
話した内容も大まかにまとめられているし、いつ俺が能力を使ったかやなんの魔道具を使用したかも載っている。
昨日起こったことなのに、ここまでちゃんと書かれた物が数時間程度で王都に送れたな。
……そんなはずないか。
一度は普通の手順で行ったことがあるのだから、王都からアンタレス王国までどれくらいの時間がかかるのか分かっている。
さすがに数時間程度では届くはずもないので、前々からあるのではっと考えていた物がやっぱり実在するのだろう。
転移の魔道具が。
ただ国のどこかで転移を使っての移動が可能という施設がないから、それ程大きい物を移動させることの出来ない魔道具。
加えて、そこまで話を聞かないので数がないのかもしれない。
ただこれに関しては常識だから話に上がらないだけかもしれない。
そして医療監房からの経過報告。
そこにはキリとリリーの名前がある。
キリは手術を行われたらしくその後のことが。
しかしリリーは症状はメルマンさんが言っていた通り解毒剤でも抗毒剤でも回復せず、今も方法を模索中とのこと。
それに何度か呼吸が止まりかけたり、嘔吐や痙攣が起こったりしたと書いてある。
「(マジか。国の施設にいる医師でも治せないのか……)」
メルマンさんの腕の問題ではなく、設備の問題だ。
薬やそれを調合する器具、他にも多少の医療器具などは自由に揃えてもらっているが、それでも国の施設内にある医療施設には勝てない。
そちらの方が充実しているだろう。
そもそも我が家ではほとんどの怪我は治癒核頼りで、薬は食当たりや風邪の時にしか使わない。
だから最初に医療監房というのを見て、治せる可能性があると期待していたけど。
残念だ。やっぱりダンジョンに行く必要がある。




