追跡、そして三階
注意:視点変更
時間は少し遡り、首長が去ってしまい彼女と一緒に来ていた看守だけが東の檻の前に残された。
そのため下手に行動を起こし辛くされてしまう。
「(ま、元から動く気はないけど)」
脱獄をすればデメリットしかないのでそんな無謀は起こさない。
それにまだ怪我で身体も満足に動かせないし、今は別のことをしよう。
まずは、首長が話していた内容から「何か見られたくない物があったのではないか」と、「彼女らは警邏である」の二つが今分かっていること。
警邏っていうのは信じても良いと考えているから、問題は最初の方だ。
襲われた時の状況を思い出しながら『天眼』を使う。
首長の話からして恐らく皆もこの堅牢署内にいる。
皆が心配なので探すべく目に魔力を流す。
ついでに俺も堅牢署内のどこにいるのかを知っておくか。
まずは『魔眼』も使って首長の霧である赤みがかったオレンジ色の霧を追う。
彼女は恐らく地上に行ったはず。なら地上から下へ順に辿って行けば俺や皆の位置も分かる。
檻が並ぶ通路を右へ左へと抜けて行き、俺の檻から二百二十八メートル程離れた所に上下に分かれた階段がある。
しかしその階段の前には一メートル半程の鉄の棒を持った看守が二人立っている。
番人か。武装をそこまでしていないのは盗られるのを避けるためとかか?
その二人を抜け、階段を上っている。
一階分を上り終えた所で首長に追いつく。
二階、三階と上って行く彼女を追って行く。
三階分を上り終えるとそれ以上上に行く階段がない。
どうやらここが一番上らしい。
建物の構造状態地上は一階分しかないだろうから、多分ここが地上だろう。
それにしても──
「(マジか。たった三階分上がるだけで三十二メートルもあったぞ……)」
『千里眼』を伸ばせばその分の距離が分かるが、まさかの三十メートル越え。
一階層の高さは三メートル半程だから、間が六メートルもある。
これも逃亡対策なのか?
先程の階段前同様に番人が二人立っている。
こちらは武器屋で初心者向けに置かれている簡素な槍を持っている。
上は手前には檻が降ろされている。そこから一メートル離れた先には扉があり、その両方に番人が立っている。
扉の先には多くの看守がいる。
机や椅子があり、そこで書類仕事や報告などをしている。
ここは……事務所か?
それにしては狭い。人が多いから、余計に狭く見える。
席の数も足りていないように見え──あ、同じ席から複数の霧が漂っている。
すると椅子の霧を見ていると、報告を受けていた看守と書類仕事を終えた看守が入れ替わり、書類をしていた人が外へと出て行く。
そして先程まで立っていた看守がその席に座る。
なるほど。一つの席に複数の人が座るから少ないのか。
それでも効率が悪いように思えるが、何かあるかもしれない。
色々と全体を見ている内に首長は狭い部屋の隙間を縫って、奥の部屋へと抜けて行ってしまった。
「(気のせいかな。なんか皆が避けているように見える)」
彼女が通ろうとするとその先にいる人たちがサッと避けて多少通りやすくなる。
首長だから上司な訳だしこの光景も変ではない。
しかしなんというか……怯え?
看守たちが彼女の顔を見てどこか怯えている様に見える。
そこでふと、彼女が家に来た時のことを思い返す。
先程下で彼女と話をしていた時同様に高圧的な物言いだった首長の姿を思い浮かべる。
「(……まあ、あの態度なら仕方がない、のか?)」
さらに日頃からその態度で今この場にいる人たちに指示を出しているのだとしたら、確かに怖れるかもしれない。
俺だってそんな上司は怖い。




