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異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します  作者: りゅうや
第8章 アトラス州の巨獣
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登山、そして手合わせ

 

 フィリブで飛び続けてから3時間ほどで陽が落ちたため下へ降りた。700メートルほどは移動出来たと思う。

 遅いと思うかもしれないが向かい風や周りの寒さなどもあるのだから速い方である。地面が雪で満ちているため歩いて行けば既に3日ほどもしくはそれ以上経っていてもおかしくはない。

 フィリブたちを洞穴の中へと入れ、俺たちもその後に洞穴へと入る。

 洞穴に入って直ぐにヒューズさんが4センチほどの火炎核を取り出し紙に火を点けてから枝の中へと投げ入れた。

 火が着いたことを確認したバジルとナルガスさんが雪を使って洞穴の入り口を塞ぎ始めた。

 確かこうすると熱が外に逃げにくくなるし外からの雪を中に入れないためだったかな?かまくらと同じだったはずだけど。


「さあ、食事にしようか」


 バジルが入り口を塞ぐ作業が一通り終わったので食事にすることになった。

 雪山に登るのだから当然食料は肉などではなく、軽くて栄養やカロリーを摂取しやすい物などになるのでハラマイというおにぎりにこの土地で採れた野菜などが細かく刻まれた物を握った物とエテリアというあえて凍らせた水を持って来てハシブという実を数個入れて溶かしたスープが夕飯となった。

 ハラマイは野菜の触感などが楽しめた。エテリアはトマトスープのような味だったが、少し苦味もあった。しかしこの苦味と温かさが身体の寒気をなくしてくれた。

 だが、当然のごとくキリがそれで足りるはずがなかった。

 せっかく夕食を用意してくれていたバジルたちには悪かったが腹ペコのキリをそのままにしていられるはずもない。

 宝物庫から以前アルタイルに行った際に買っておいたペシブという料理を取り出した。

 ペシブはアルタイルの名物らしくどの魔獣の肉でもいいのでそれを一口サイズにし、麺と野菜と一緒に焼く。言わば焼きそばだ。ただアルタイルでは最後に香辛料をかけて辛くする。それを人数分取り出す。

 キリのために大量に購入したのだがこういう形で役に立つとは。

 いきなり現れた料理に驚く3人を置いてキリたちはペシブを食べ始める。


「ア、アズマ...こんなのどこに?」

「あー...俺の固有能力で収納しておいたやつ。出来立てと変わらないから熱いうちにどうぞ。でも辛いから注意な」


 3人は恐る恐るペシブを食べ始める。


「辛っ⁉︎」

「⁉︎」

「やっぱりか。はい、水」


 ペシブを食べてバジルとナルガスさんが表情を変える。ヒューズさんは何ともない顔で食べ続けている。

 これ結構辛いんだけどなぁ...

 食事を終え、全員が暇そうな表情になる。


「全員でトランプでもする?」

「いいわね。私はババヌキがしたいわね」

「私も」

「うん、やる」

「はい」

「「「「とらんぷ?」」」」


 何となく思いついたので提案したらキリたちが乗ってくれた。

 トランプを知らない4人にだいたいの説明をしてから宝物庫からトランプを取り出した。

 ルールは追々覚えてもらおう。

 最初は順調に知ってる組が勝っていったのだが、2回目からはヒューズさんが、4回目からはバジルが早くあがり始めた。

 ヒューズさんはルールを直ぐに覚え、さらに相手の表情からのカード選択。挙句の果てには多少の動きの変化などからどんどん勝率を上げていった。

 バジルは何度かルールを聞いてきたが次第に慣れ始め彼も勝率が上がっていった。

 ナルガスさんの場合は無口とほぼ無表情が効き、最初の方から強かった。

 数回遊び疲れたので止めようとしたらバジルとナルガスさんとサナとリリーが「まだやりたい」と言うので続けている。

 ヒューズさんは武器の手入れを。ニーナは読書(本はニーナに渡されたのを宝物庫に入れていた)。ユキナは先ほど眠いと言って寝始めた。俺の肩に寄り添って。キリは俺の隣に座って俺とたあいない話をしている。

 しかし気のせいだろうか。さっきからキリの表情が苦しくなっているような...顔も少し赤いし、汗もひどい。それに腕を脚で擦ってもじもじしている。


「キリ、もしかして体調悪いのか?」

「⁉︎う、ううん!大丈夫。大丈夫よ。だから気にしないで」

「でも顔色悪いぞ?さっきから身体も擦っててるみたいだし」

「それは、その....!そうだ、東。私家に忘れ物したの。急いで取りに帰りたいからゲート開いて」

「いやそれより医者に診てもらった方が」

「急いでるの!お願い」

「分かった。でも辛くなったら言えよ?」

「え、ええ。分かったわ」


 俺は洞穴の奥の方にゲートを開いた。キリは動きがぎこちない走りでゲートへと急いだ。


「大丈夫かな...」

「アズマ、は異性へ、の配慮、がない」

「え?ユキナ起きてたのか。ていうか何の話?」

「なんで、もない」


 そう言って再び寝息を立て始めたユキナ。

 え?マジで何の話?

 その後ゲートから戻って来たキリの表情はいつも通りに戻っていた。風邪ではなかったことに一安心する反面、あの時のユキナの言葉の意味に悩まされた。

 

 その後は寝る時間だとバジルに言われ全員寝ることにした。寝る際に大きめの布を渡された。

 渡されたはいいのだが、大きさが3、4人ほどしか入れない布だった。それが3枚。ここでは流石に男女が一緒という訳にもいかないので男組と女組に分かれて寝ることになった。

 気のせいか婚約者組ががっかりしていた。

 翌日になってもすることは同じだった。ただ少し出発時間が遅めだった。理由が気温がまだ低いので朝に移動するのはよくないとのことだ。

 なので昼少し後からの移動となり800メートルほど移動したところで次の洞穴に着いた。中は昨日の洞穴よりも少し大きめだった。

 こんな日々を繰り返していくうちに山頂が見え始めた。ここまでで計8日。予定より早く来られたところで洞穴へ移動となった。


「さて、そろそろ頂上に到着するけどここからが大変だからね?」

「そんなに強いのか?エルダースノウマンって」

「うん、まー。それも強い相手だから大変なんだけど、まずは頂上に着くことが大変だね」

「大変ってフィリブで飛んでくんだろ?」

「いや、フィリブで飛べるのはここまでだよ」

「は?じゃあどうやって頂上に。まさか...」

「そう、そのまさか。歩いてさ」


 バジルはいい笑顔で言い放った。

 確かに風や雪が強くなってきているし、視界が悪くもなってきている。今だって息をするのが少し辛い。フィリブで飛び続けるのは厳しいかもな。


「でも、登山用の装備とか持ってきてないぞ?」

「その点は心配いらない。フィリブたちがいれば多少時間はかかるが普通に行くよりかは(はる)かに速い」

「?フィリブの足ってそんなに便利なのか?」

「ああ。元々彼らが生息していた場所はここよりもさらに寒く視界の悪いところだからね。まあ目が悪いから昼間だけしか行動してないけどね」

「へーぇ」


 それなら大丈夫そうかな。

 しかしこのフィリブたちはバジルによく懐いている。これは固有能力の力なのか。それとも本当は魔獣ともこんなコミュニケーションを取ることが出来るのか。少し気になるな。

 そしてその説明を聞いた後に夕食となった。

 3日前でバジルたちが用意した食料を全て食べ尽くしてしまい(主にキリが)、俺からの提供となった。

 一応調理道具なども一式ほど宝物庫に入れておいたので、俺とニーナで作ることになった。

 今晩は昨日の残りのカレーだ。カレーはこちらの世界にもあるそうだがひっどいほど辛いらしく滅多に食べたがる人はいないそうだ。

 香辛料は店に売っていたがかなり高かったが、ちゃんと買ってある。

 今回のカレーの香辛料は、ゼクというクミン、ブギアというシナモン、アクセというにんにく、レチアルというカルダモンなどを使った。ブラックペッパーも探したがなかった。コショウなどはこちらの世界では香辛料よりも高級らしい。

 辛さは控えたので全員ちゃんと食べてくれた。最初は堪らわれたけどね。

 夕食を終え、また自由時間となり寝る時間になり眠った。

 そして翌日の朝、俺たちはフィリブに乗って歩きでの登山となった。視界が悪く、追い風や雪による妨害。不安定な地面によってかなり進みが遅い。体温の低下も激しい。

 数メートル進むだけでもかなり体力が持って行かれる。

 そんな感じで時間が進んで行き、あっという間に陽が落ち始めた。陽が落ち始めれば当然気温も下がる。

 しかし今俺たちがいる場所からは洞穴の姿などはない。洞穴を掘ろうとも考えたがここは雪山。洞穴を掘って地盤が緩めば雪崩になる危険性もあるため、諦めて進むしかなかった。

 運が良ければ洞穴が見つかるし、悪ければこのまま頂上まで進むしかない。


「みんなっ!大丈夫かっ⁈」

「こっちは大丈夫だっ!」

「....」

「こっちも大丈夫だよっ!」


 バジルがほとんど姿の見えなくなったみんなに呼びかける。ヒューズさんの後にリリーの声がした。

 みんな大丈夫そうでよかった。しかしこの視界の悪さは厄介だ。ましてや辺りが暗くなり始めた。つまり夜である。夜になればフィリブたちはまともに動くことが出来ない。

 だから止まるしかないのだが、この寒さで洞穴なしで過ごすのは厳しい。何かいい方法があればいいのだが...ん?待てよ。この方法を試してみる価値はあるな。

 俺はそう思い宝物庫から雷光核を取り出し、魔力を少し多めに流す。するとフィリブを覆うほどの光が発せられた。


「それは、まさか雷光核⁉︎」

「ああ、これで何とかならないか?」

「それなら僕が持とう。少し眩しいが多分フィリブの視界が少しよくなるだろうからね」

「なら少し速さを落として、他のみんなにも」

「みんなにもってアズマはそんなに雷光核を?」

「ああ、人数分あるから心配するな」

「...そうかい」


 バジルがフィリブのスピードを落とすとヒューズさんが操るフィリブが見えた。俺はヒューズさんに雷光核を渡した。

 やろうとしていることを伝えようとしたが、その前に雷光核を光らせた。どうやら分かってくれているようだ。

 同じようにナルガスさんにも雷光核を渡した。

 すると3人はフィリブの走らせるスピードを上げ始めた。おいおい...

 途中に倒木などもあったが軽々とジャンプして避け、そのままのスピードで走り続けた。

 それから何時間か走り続け、ようやく山頂へ着いた。

 下から見た時は霧で頂上は詳しく見えなかったがカルデラになっていたようだ。周りを見回すが山頂はさらに霧が濃くなっていて雷光核で照らしているはずのヒューズさんたちのフィリブの姿もはっきりとは見えない。

 見えるのは薄っすらとした光だけだ。


「ヒューズ、ここから天幕(テント)の方角はっ?」


 バジルがそう言うと雷光核を真上に放り投げた。


「...三時の方向、やや右だっ」

「了解っと」


 雷光核をキャッチすると方向を少し変えて走り出した。


「バジル、何でヒューズさんは方角が分かるんだ?太陽は見えないぞ」

「ああ、だから雷光核(これ)を投げたんだよ。僕たちが登って来た方角は朝陽を背に登って来ていた。そしてこれを陽に見立てたって訳だよ」

「そんなのって...」


 これは普通出来ることなのか?多分雷光核を方位磁針の軸だとすればいいんだろうけど、それでも上手くいくものなのか?

 そんな疑問を抱きながらフィリブがどんどん進んで行くとテントが張られているのが見えて来た。

 テントの数は1つ。外に2人の男性が火を焚いている。


「っと、どおどお」

「おお、バジルたちか!援軍が来たのはありがたい」

「お待たせ、エデル。早速だけど状況は?」


 バジルに寄ってきたエデルと呼ばれた男性。30代くらいで目付きが少し怖いが笑顔で俺らを迎えてくれた。厚着だがそれでも彼の身体ががっちりしているのが分かる。

 うちのロベルトさんほどではないが、それでも大きい。


「ああ、エルダースノウマンはまだ寝てるがもう時期だろう。スノウマンたちがかなり湧き始めてる」

「そうかい....」

「....なあ、バジルよ?」

「ん?何だい?」

「こんな小僧たちがギルドからの援軍か?」

「ああ、そうだよ」

「おいおい大丈夫かよ。こんな小僧たちじゃすぐにやられちまうぞ?」

「ふむ....それなら」

「ならエデルが少し交えてみたらどうだ?それで少しは分かるだろ?」

「そうかもしれねえけど、俺は加減とかが苦手なんだが?」

「その時はその時だ。使い物にならなかっただけだ」

「相変わらずだなぁ、ヒューズは。おまえさんはそれで良いかい?」

「ああ、構わない」


 了承すると俺とエデルさんは少しみんなから離れたところへ移動し向き合う。間は5メートルほど。


「一応怪我させないようにするが、もしもん時は剣も使って良いからな」

「ああ、だが遠慮しておく」


 俺は剣を宝物庫へと仕舞った。


「なら行くぞ!好きなように動け!」


 そう言い終えたエデルさんは地面を蹴って一回のジャンプで俺のところまで詰めてきた。その勢いで右手で殴りかかってきた。俺はそれをギリギリで避け、下から平手打ちをする。

 しかし反対の手でそれを弾かれてしまった。エデルさんはそのまま身体を捻って回転し、着地した。


「ほお、あれを躱してからすぐさま攻撃してくるなら銀だな」

「...俺、赤なんだけど」

「なんとっ⁉︎まあ、手を抜いたしな。避けれて当然だな。うん。次は少し強めに行くからな」

「....エデル。能力を使え」

「はぁ⁈何言ってんだ、ヒューズ。この小僧が死ぬぞ」

「そいつ相手なら平気だ。最悪俺が止めに入る」

「だが...」

「俺は大丈夫だ。それで信じてもらえるならそっちの方が手っ取り早いし」

「...そうかい。なら使うが、死んでも知らんからな」


 そう言ってエデルさんが姿勢を低くする。ゆっくりと左拳を前に出し、右拳を右肩ほどに引く。中国のカンフーポーズの一つの体勢になった。


「っふん!」


 そして勢いよく右拳を前に出し突っ込んで来た。スピードはさっきよりも断然速い。

 これを避けるのは普通に出来る。しかし避けたら納得してもらえないかもしれない。

 だから、


「っん!」

「⁉︎」


 避けずにこちらも殴る。拳同士が合わさる。

 間合いが1メートルと少しだったので互いに踏ん張ることが出来る。この間のナルミトスの反省点だったやつだ。

 エデルさんの力はかなり強く、少し気を抜けば確実に吹っ飛ばされる。

 でも、まあここら辺で終わらせるか。


「ふんっ!」

「ん⁉︎くっ」

「んっ...おらぁっ!」

「うおっ⁉︎」


 少し力を強くしてみるが耐えられたのでさらに力を強くするとエデルさんが後ろに8メートルほど飛ばされてしまった。俺が力加減を間違えたようだ。

 すぐにエデルさんの元へと駆け寄る。


「悪い、大丈夫か?」

「あ、ああ。大丈夫だ。まさか『馬力』を使って負けるとはな。はは」

「怪我とかは?」

「それも大丈夫だ。鍛えてるからな」

「そうか」


 俺は安堵の息を漏らす。

 エデルさんの力は本当に強かった。本気の3分の1を出してようやくだったのだから。ちなみにナルミトスの時は内臓などを怪我させて出血されては困るので4、5分の1で戦った。


「大丈夫、東?」

「ああ、なんともない」


 エデルさんとみんなのところへ戻ると女性陣が駆け寄って来た。みんな心配そうな表情だったが俺の返事で安心の表情へと変わった。


「なんともないねえ。一体アズマの身体はどうなっているんだろうねぇ」

「本当だぜ。俺の馬力をその細腕で止められるとは」

「ちなみにアズマは、ヒューズの能力も一回避けてるよ」

「はぁっ⁉︎え?ヒューズのアレを⁈俺だって分かってても全然避けられないのに。いや、でもこの小僧ならあり得る気も」

「ふんっ」


 そうブツブツ独り言を言い始めたエデルさんに気に食わなそうな顔でそっぽを向くヒューズさん。そしてそんな2人を面白そうに見つめるバジル。

 その後、独り言を終えたエデルさんに自己紹介をすることになった。リリー以外が赤ランクだと伝えるとかなり驚かれた。

 その時バジルから、エデルさんは青ランクだと教えてもらった。



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