小さな情け、そしてブライアンの能力
「分かっているとは思うが、命令違反を起こしたんだ。相応の罰則を受けてもらう。良いな?」
首長が怖い顔で確認を取ってくる。
これも当然の報いなので甘んじて受け入れる。
「はい。本当に申し訳ございません」
頭を下げて謝罪する。
罰則だけで終わらせて良い結果ではないのだが、彼女からの情けによるものだろう。
一番辛いんは君やろうに、と思いながらも過ちを犯した自分ではそんな彼女に励ましの言葉をかけることは出来ない。
「……もし貴様が同乗していたら今回の件は起きなかったと思うか?」
ただ頭を下げ続けることしか出来ないでいるブライアンに彼女は問う。
その声には先程まで宿っていた他者に物言わせぬ圧が薄れ、寂し気な想いを孕んでいる。
彼女の問いを受け、顔を上げたブライアンは考えることなく答える。
「無理です」
部下を失い寄り添い先を探していた彼女を一蹴する。
その返答に眉根を寄せ訝し気な表情を浮かべる。
「私も報告書は読みました。その上で無理です」
理由を答える前にさらに否定する。
「……それは貴様の能力を使ってもか?」
「使ってもです。私の能力は『どこから来るのか』を行動の数瞬前に知らせてくれるだけです。今回の様な範囲の広い攻撃には対処出来ません」
「そうか……」
ブライアンの説明を受けて首長は表情を曇らせる。
彼の固有能力『アラート』は東の『言語』系と同じで常時発動型。
自身に降りかかる災厄を矢印によって知らせるという能力であり、それが解るのは約一から二秒前。
剣での戦闘であればその能力は最強に等しい。
何故ならフェイントや剣速を無視した確かな一のみを知らせてくれる。
その場所をこの方角からこの角度で狙うという未来をほぼ確定で視るためである。
しかし今回の場合は、同時に多方面から攻撃なため解ったとしても回避が間に合ったとは思えない。
そう考えてブライアンは否定した。
また彼の能力では、方向が解ったとしてもその方法までは解らない。
今回は能力によるものだったが、それが多種多様の武器による可能性もある。
その分別までは見ない限りは分からない。
そのため奇襲をするために隠れている相手に先手で攻撃することが出来ない。
ただ方向から逆算すれば相手の位置はある程度分かるため、遠距離での対処は出来る。
「襲撃者を寄越したのは恐らくキリサキだ。証拠隠滅として子供を消しておきたかったのだろう。本当に反吐が出るっ」
部下たちはどちらにしても助からない運命だったと知った彼女は秘めていた憤りを露わにする。
同じ心境であるブライアンは、しかし静かにそんな彼女の姿を眺めているだけだった。
彼はただ召集されただけなため、今から東に対して何かすることは出来ない。
「ギルドでの評判はやはり偽りだった。そこはまだ良い。が、人を、子供を利用した挙句に始末しようとすることが人として許せん!」
竹馬の友しかいないこの場だからこそ彼女は吐露する。
二人しかいない時はいつもブライアンに気持ちを聞いてもらっている。それも相まって彼女のブレーキが鈍くなっていた。




