本題、そして判断
「せやな。可哀想やな……」
なんの罪もない子供を利用する犯罪者。
そしてそれを捕まえることが出来なかった自分。
その二つに対する怒りと悔しさ、そして巻き込またことに悲哀を感じるブライアン。
「……所でアッ君、なんであの子と一緒に行かなかったんですか?」
彼の様子に気がついた首長はとっとと本題へと話を切り替える。
その切り替えにブライアンが息を飲む。
「私は言ったはずだ。キリサキを乗せる馬車に乗るように、と。何故同乗しなかった?」
にっこりと微笑みながら彼に説明を求める。そんな彼女の口調は首長の時のになっている。
顔は笑顔なのに彼女の背後にオーガの錯覚を見るブライアン。
彼の頬を冷汗が伝い、目が泳ぎ始める。
「あー、いやー。その、な……」
その追及に対する言い訳を一生懸命考える彼だが、中々良い物がパッと思いつかない。
「言い訳はなしだ。早く話せ」
しかしそんな考えなど彼女にはお見通しであり、催促が飛んでくる。
数十秒程間を置いてもう一度どう誤魔化すかを思案するが、彼女の刺す様な視線にブライアンは観念する。
「はぁ……申し訳ない。屋敷にいた嬢ちゃんたち、特に怪我人を安全に搬送するよう伝えとったから一緒に行かれんかったわ。可愛い子たちやったし、念のため言うとかんとあかん思ってな」
全てを話した訳ではないが、嘘を吐いた訳でもない。
これが最善だと考えてだ。
坊主に頼まれたからということは伝えられない。
そもそもこの件に関して、別段あの子が悪い訳ではない。彼はキリサキの仲間を庇おうとしただけなのだから。
自分で断った彼の願いを勝手に聞き入れ対処したのだから、ここで彼を悪とすることは恥ずべき行為だ。
しかしその結果が坊主も含め、彼女の部下八名が襲われた。内二名は重症、残り六名は死亡。
本来であれば誤魔化さずに伝えるべき状況。
それをしなかったのは自己保身のためではない。
自分の勝手な判断で動いて起こったことなのだから、全ての責任を自分に向けなくはならない。
故に『坊主が言ったから自分は同行しなかった』ではなく『自分が勝手な判断で同行しなかった』にしなくてはならない。
もちろん全てを正直に話し、自分に責任を果たさせて欲しいと願うことも出来た。
しかしそうなれば彼女は子供の頼みを聞いた者に罰則を与えなくてならない。
それは彼女には辛い内容だ。ただでさえ部下を亡くしたばかりなのだから、その案は即刻棄却にした。
そう判断したからの報告だった。
「……確かに犯罪者の仲間ということで暴行を加えた者が過去にいた。だが、今回のキリサキ捕縛と家宅調査に選ばれた者たちはそんな愚行を犯す者はいない。そう信じてやって欲しかったな」
ブライアンの心配は杞憂となったが、代わりに部下を信じてあげられなかったと落胆される。
仕方のない代償っと彼は割り切る。




