屋内、そして精査
目が覚めると視界が暗い。何も見えない。
常時発動させている『魔眼』が切れてい──
「っ!!」
状況をなんとかしようとした所で全身に激しい痛みと内側から燃え上がるような熱が一気に駆け巡る。
痛い痛い痛い! 全身が痛いっ!! そして熱い!
突然の痛みに飛び跳ねそうになるが、なぜか身体が動かない。
ずっと痛みを訴える身体を早くどうにかしたくて治癒核を欲するが、身体は動かせずどうすることも出来ない。
血反吐を吐いて悶絶しそうな痛みが、身体のあちこちから数秒置きに痛みを主張してくる。
そんな手の施しようがない地獄の様な事態に、ただ痛みに耐え続けることしか出来ない。
そんな状態のまま数十分程経過し、身体が少しだけその痛みに慣れ始め頭が働くようになる。
い、一体何が......今はどういう状況なんだ?
暗いせいで尚のこと状況が掴めない。とりあえず『魔眼』だ。
魔力を流して『魔眼』を発動させる。
……見えない。なんでだ? 目は開いているのに何も見えない。
視線を左右に動かしてみるが、やはり見えない。
もしかして視界が閉ざされている?
そう考え、その視界を閉ざしている物を退かそうとするが、腕、それ所か指の一本も動かない。
『千里眼』を使って周りを確認する。
天井や壁は石造り、通路側は鉄格子で遮られている。どちらも多少年季は入っているが堅牢だろう。
次は『千里眼』を『天眼』にして俺の様子を確認する。
そこにはミイラかと思える程に全身包帯だらけで、ベッドらしき所に寝ている。
なるほど。視界を閉ざしているのは包帯だったか。
というか、甲冑の連中が来てから道中で襲われるまでのあれは夢ではなかった訳か。
あんなの夢で終わりたかったんだけど……
記憶に残っている出来事に暗然とする。
それにしてもどれくらい寝ていたのだろうか。小窓なんてないから今が時間なのかも分からない。
ま、『千里眼』があるから窓がないのは大した問題でもない。
寝たまま体勢で『千里眼』を上へと距離を伸ばす。
五十メートルくらいで大丈夫だろう。
「マジか」
視界に映るのは先ほど見た壁と同じ石造りの廊下。
長い廊下の端には鉄格子の檻が続いている。
その中には俺と同じ様にベッドらしき所で横になっている者や腰かけている者、密かに壁を掘っている者などがいる。
五十メートルも上昇させたのにそれでもまだ出られないのか。
でもそんな建造物王都にあったか? ギルドでももう突き抜けている頃なのに。
仕方がないので百、いやまた足りなかったら面倒だしその倍の二百にしよう。
五十メートルから二百メートルに変更し、さらに上空で『天眼』に切り替える。
『天眼』によって映し出されるのは王都南部。
そこで自分の場所を知るより先に、気になるものが視界に映る。
少し小さいが南の門の前とその門を抜けた先にある街道に長蛇の列が成している。
本来こっち側は貿易品や農作物、綿織物、材木などを商人が持って来る。
時間帯は影の位置からして昼前、恐らく十一時くらい。
その時間なら商人だけでなくや依頼を終えて帰って来た冒険者、観光目的の人などでごった返す。
それこそ毎日多くの人が行き来している程に。
それなのにそんな彼らを通す門では、針孔に糸を通す様に慎重に人を精査している。
いや、普段もちゃんと精査はしているが、一人にかける時間が明らかに長い。
二、三分もかからなかった精査が五分、長ければ十分もかかる人がいる。
長いのは主に積み荷の多い商人や他の街に向かう市街馬車と呼ばれるバスなどだ。
何かを探している?
普段と違う光景のせいで理解するのが面倒になってくる。
次から次へと何が起こっているんだ……?




