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異世界に転生したのでとりあえずギルドで最高ランク目指します  作者: りゅうや
第7章 アンタレス王国〜ユキナ奪還〜
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祝福、そして交渉

 

 告白(プロポーズ)をされた翌日。王様から来てくれと言われたのでゲートを使って王城へ行く。

 事前に応接室へ来いと言われていたので応接室へ直接行った。


「やあ、アズマくん」

「どうも。んで何の用?」

「まあまあそんなに急がなくても。どうせ時間は止まっているんだからさ」

「そうかもだけど...」

「今、お茶でも用意するからさ。トール、お願いね」

「...かしこまりました」


 そう言って俺の後ろにいたトールさんは扉へと向かう。その時の彼女の顔はとても嫌そうだった。

 てか、時間止めてるのに動くのか?お湯とか色々。

 1分くらいでトールさんが戻ってきた。


「どうぞ」

「どうも」


 カップに紅茶を注ぎ、俺と神様を挟んだテーブルの上にカップが置かれる。

 俺は紅茶を手に取り、ゆっくりと飲む。


「まあ、とりあえず婚約おめでとう。アズマくん」

「....はぁー。何で知ってんだよ?」

「あれ?意外と驚かないんだね。君たちの元いた世界であった漫画?みたいに「ぶぅぅぅっ」て吐き出すと思ったんだけど」

「あんたが覗き見(ストーカー)してることにはもう慣れたよ。どうせ四六時中俺のこと見てるんだろ?」

「せー解」


 神様はとてもいい笑顔で返してきた。てか、俺が紅茶を飲む瞬間を狙うって酷いな。

 この人、本当に神様何だよね?


「と、言っても流石に私でもアズマくんのプライベートは守るつもりだよ?」

「なら俺のプライバシーも守ってくれよ」

「....はぁー、美味しい」


 俺の返答に笑いながらスルーし紅茶を飲む神様。


「はぁ...もういいや。んで今日呼んだのは祝福(されたかは分からないが)のため?」

「それもあるけど、今日アズマくんを呼んだ理由はお祝い品としていい話を聞かせてあげようと思ってね」

「いい話?」


 俺が聞き返すと神様は少し口角を上げて頷いた。


「実は今日の昼過ぎくらいにこの国の交易商がやって来るんだ。彼は変わった男でね、珍しい物に食いついては自分の商売品にする。そして毎回大成功を納めている」

「それは商人なら普通なんじゃないか?」

「そこだけならね。でも彼の場合は、自分で作っちゃうから面白い」

「作る?商品を?」

「そう。だいたいの商人たちは契約を結んで販売するんだけど、彼は自分で作っている。ちなみに彼が大成功させている商品の半分以上は自作だそうだ」

「そりゃすごい」


 さらに詳しく聞くと、店の照明や扉に付けられていた鐘などもその商人が作ったそうだ。


「それで?その人が来るからどうしろと?」

「彼に会ってもらう。実は前にその彼にアズマくんの世界にあった『トランプ』を見せて、やり方を教えたらかなり興味を持たれてね。それで作った本人と会わせてあげると言ったら喜ばれてね」

「何で宝物庫に入ってるトランプをあんたが持ってんだよ。それと何で勝手に話を進めてんだよ」

「ごめん、ごめん。話のを忘れていてね。何しろ1年も前だからね」

「....?ちょっと待て。俺がこっちの世界に来てからまだ1年も経ってないはずだけど」

「そうだね。彼に見せたのもアズマくんがいた世界から持ってきた物だったからね」

「それは『作った本人に会わせる』になるのか?」

「この世界で最初に作ったのはアズマくんだから問題ないと思うよ」


 あまり俺の疑問の返答になっていない気がするがもういいや。


「ちなみに約束したことも忘れていたから、今日来る目的は催促(さいそく)だと思うよ」

「余計に酷いな」


 神様は笑いながら紅茶を飲む。俺も呆れた顔で紅茶をいただく。美味しい...


 ______________


「初めまして。私、クレイン商会のデオル・クレインと申します」

「どうも。俺は桐崎 東です。桐崎が名字です」

「ほう。珍しい名ですね」


 そう言ってデオルさんと俺は握手をする。これ毎回言われているような...

 神様に言われた通り昼過ぎにクレインさんがやって来た。家に。

 神様、催促されるの逃げたな。


「さて、あまり前置きも必要ないと思うので早速本題へ入りたいと思います。『トランプ』という物をご存知ですね?」

「ええ」

「そちらを我が商会で販売したいのですが」

「いいよ」

「分かっております。このような物をそう易々と売れないのは...今、何と?」

「だから、別に構わないって」

「え?そんなあっさり決めていいのですか⁈いえこちらとしては有難いのですが...」

「ならよろしく」

「はぁ....で、では、まず商品の取り分ですが、6、4でいかがでしょうか?」


 確かこの場合って最初が自分(商人)で次に相手(俺)になるんだっけ?よく分からないけど。


「じゃあそれで」

「ありがとうございます。ではこちらに記名、とハンを」


 そう言って紙を渡された。契約書かな?

 少し見続けていたら日本語が現れ出したので書類に目を通す。

 怪しいところはないと思うが一応ね。

 別に詐欺をされても困りはしないがこういうことはやっておいても損はないと思う。まあ、難しいこともいくつか書かれているのでよく分からなくなりそうだったが俺に不利益を生むことはなさそうだ...多分。

 俺はその書類に名前を記入する。


「あの...俺ハンコとかを持ってないんだけど?」

「はんことは?もしや新しい商品のことですか⁈」

「い、いやそうじゃなくて。今ハンをって」

「?ハンはこれに魔力を流していただくことですが?」

「ああ、そうだった!そうだった。すいません」


 俺は慌てて契約書に魔力を流す。でも何でこれがハンなんだ?

 そう思いながら適当に魔力を流す。


「...もういいと思いますが?」

「ああ!はい...⁉︎」


 俺が指を退けると指を置いていたところに青色の指紋が着いていた。


「え?何これ?汚れか?」

「?それがハンですが?」


 ああそうなのね。これが...


「これで契約完了となります。それでは試作品をご用意しますので、問題があればお教えください」


 デオルさんがそう言いながら取り出したのは画用紙だった。まさか作るの?今、ここで?

 デオルさんがテーブルに画用紙を置いて目を閉じながら手を(かざ)す。すると画用紙が光に包まれ始めた。

 少ししてから光が収まると、画用紙のあったはずの場所には積み重なったトランプが置かれていた。

 恐る恐る手を伸ばしてトランプを手に取り、中を確認する。1枚、1枚ちゃんと作られており、スペード、クラブ、ハート、ダイヤがそれぞれ13枚。数字はおろか数字に応じたマークの数やJ(ジャック)からK(キング)までの絵も細部まで描かれている。

 ちゃんとJから意味がある剣や花、盾や斧なども描かれている。

 2枚のJK(ジョーカー)も入れて計54枚。


「いかがでしょうか?」

「問題はないようで。しかしほぼ一瞬でここまで正確に作るとは」

「以前国王様に拝見させていただいた際にじっくり拝見させていただいたので」

「いやそれでもすごい」


 デオルさんは少し照れくさそうな顔だがこれは冗談抜きで凄い。


「遊び方とか分かる?」

「国王様よりご教授された『ババヌキ』と『ポオカア』というの以外にもあるのですか?」

「ええ。と言っても俺が知っているのだと...」


 その後俺が知っているやつをいくつか教えた。デオルさんはそれを真剣に聞いてメモしていた。

 後にトランプと一緒に『トランプの遊び方』みたいな本が売られることを俺は知る由もなかった。商売上手いね。

 デオルさんとの交渉を終えてから数日が経ち、東は...


「寒い...」


 家の布団に包まっていた。

 こちらの世界ではもうそろそろ冬が始まるとのこと。

 気温を測る技術はないそうなのでこの部屋や外が何℃なのかは分からないが、俺の予想だと16℃ほどだろう。

 地球のような暖房機器があればいいのだが。いやこの世界にも存在はしているし現に王都の方で売られてもいる。ちなみに発案、製作者はもちろんデオルさんである。

 なんでも魔力を流して中にあるナルミトルとかいう魔獣の血液を温めるそうだ。ナルミトルの血液は魔力の伝導がよく、温かくなるそうだ。しかも血の匂いが全くしないそうだ。

 それになんか色々な魔獣と鉱石を合わせて、ストーブのような物が作られた。

 ただ材料がそう簡単に手に入らない物も使用しているらしくかなり高い。なのでよっぽど裕福な貴族ぐらいしか買っていないそうだ。

 うちでも買えないことはないのだが、買えない理由があるので買わないことにした。

 まず、全員がそこから動かなくなる。

 次に、出来ることなら複数必要だから。特にポールさんたちの休憩所に置いてあげたい。

 最後に、先日見に行ったら既に売り切れてました。次の入荷は未定で、早くてもあと1年くらいは先だそうだ。

 なので俺は家で布団に包まっているのだ。


「....あれ?そういえば」


 俺はあることを思い出し、布団から出てゲートを開いた。


 _______________


「ごう?」

「おお、やっぱり。いたいた」


 目の前にいるのはゴリラような身体だが顔はアリ食いのような魔獣。ナルミトルだ。

 ゲートで王都のギルドへ行き、こいつの討伐依頼を受けてきたのだ。前にユキナと王都へ来た際にギルドにも立ち寄った。

 立ち寄った理由は今度みんなで受けるクエストを適当に探しておこうと思ってだ。

 その時にたまたまナルミトル討伐の依頼を見かけたことを思い出したので、来たのだ。

 ナルミトルは凶暴で赤ランク以上の冒険者でしか受けられない。これも暖房機器がなかなか作られない理由の一つなのだろう。


「しかしデカイな。4メートルくらいか?」

「ごぉっ!」

「おっと」


 俺がナルミトルの大きさに驚いていると、ナルミトルは地面に指を刺し、丼くらいの大きさの土を投げつけてきたので少し横に飛んで避ける。

 しかし俺が避けた先に再び土の塊が飛んでくる。これには身体の反応が間に合いそうになかったので左手を前に出して防ぐ。


「っいった!」


 運がよければキャッチ出来るかなと思ったが無理だ。多分思いっきり投げた硬球を素手で取るようなものだ。聞くだけだとあまり痛く感じないかもだが結構痛い。

 しかも土だったため手のひらで砕けた塊が顔に当たった。


「っの野郎!」

「ごぉぉっ!」

「っふん!」

「ごぉぉっ!」

「うおっ⁉︎」


 懐に飛び込んでやろうと地面を蹴ったが流石は赤ランクの魔獣だけあって反応が速かった。

 真っ正面から30センチはありそう拳でストレートに殴ってきた。俺も元からストレートで殴るつもりだったので互いの拳がぶつかり合う形になった。

 飛んで詰め寄ろうとしたのが(あだ)となり、力不足で押し返されてしまった。

 なんとか木にぶつかる前に体勢を立て直せた。

 しかし、俺が地面に足を着けてからほぼ間を置かずにナルミトルが突進して来た。

 俺は慌てて避けるがズサササササァという音の後に身体に衝撃が走り、俺は地面に叩きつけられた。


「ごぉぉ」

「ぐっ⁉︎」


 倒れている俺の背中に重い何かが乗る。首をなんとか動かして背中を確認するとナルミトルの足が乗せられていた。

 さらにナルミトルは足で俺をグリグリと転がし始め、腹が上になると体重をかけてきた。


「ぐぇっ⁉︎」

「ごぉっおっおっおっ」


 ナルミトルは俺をあざ笑うかのような笑みを浮かべて俺を見下ろしている。俺はそんなこいつに、悲痛な顔を向けるしかなかった。

 そして、俺は震える腕を天に向ける。その様は「殺さないでくれ」と命乞いをするようだった。


「.....ありがとよ」

「ごぉぉ?」


 俺は命乞いに見えていたであろう腕で油断しているナルミトルの足を触る。


「ぐほっ‼︎⁉︎」


 途端にナルミトルが小さい悲鳴をあげ、体勢が崩れ、背後へと倒れる。

 俺は立ち上がって服に付いた砂などを払う。視線をナルミトルに向けるがナルミトルは動こうとしない。否、動けないのである。

 ナルミトルが動けない理由はウォーミルによる低体温症ではない。そんなことをしては血液がダメになるかもしれない。まあ、暖めれば治るけど。

 今回使ったのは先日ステータスを確認した際に記載されていた『麻痺』であった。発動条件はウォーミルと同じで相手に直接触れること。これだけである。

 ただ少し難点なのが、ウォーミルを使いたい時と麻痺を使いたい時ではなぜか切り替え?なければならないのだ。

 要するに、能力を使う際にはどちらかを先に決めてから使えっということだ。


「でも、やっぱり剣を使わずに戦うのは辛かったなぁ。使えればもっと楽だったのに」


 俺はそう(なげ)きながらゲートを開いてナルミトルを担いで王都へ行く。

 売る前に腕の一本ほどもらい、切り口だけ凍らせて血止めした。


 _______________


「ただいまー」

「あれ?東。どこか行ってってどうしたの⁈その服!」

「魔獣の討伐。まあまあ強くてさ」

「東がそこまで。相手のレベルは?」

「71」

「?東なら楽な方じゃないの?」

「剣とウォーミルなしだった」

「なるほどね。でも何で使わなかったの?」

「あー...ナルミトルって魔獣知ってる?」

「名前くらいなら」

「そいつの血液が欲しかったからどっちも使えなかった」

「そういうこと。大変だったのね。でも何で血液が欲しかったの?」

「それは後で教えるよ」

「そう、分かった」


 そんな会話をして俺とキリは互いの部屋へと向かう。道中メイドのスピカさんにも会ったが挨拶を交わしてとっとと去って行った。相変わらずの無愛想である。別に不満はないが、洗濯を頼めばよかったと思った。


 _______________


「アズマ、これ何?」


 夕食を終え、サナが俺から渡された白い布に入った物を手に乗せ聞いてくる。キリやユキナは触ったり揉んだりしている。他の人も同じだ。


「懐炉って言うんだ」

「「「「「カイロ?」」」」」

「魔力を流してみて」


 全員は納得のいかない表情のまま俺の言われるがままに懐炉に魔力を流す。


「あれ?なんだかあったかくなってきたような」

「確かに。これは...ナルミトルの血液ですか?」

「そう」


 ニーナが正解を口にする。

 デオルさんの発明から思いついたのだが、上手くいったようでよかった。


「これを作るためにクエストに行ったのね」

「ああ。この時期は冷えるからね。みんなには風邪とか引いて欲しくないし」


 みんなが俺の方を向く。なんか照れ臭いな。

 ポールさんたちにも渡してある。みんな喜んでくれた。

 しかしこの懐炉、便利だな。魔力をある程度流せば長時間暖かいし、捨てなくてもいい。いや、血液だからそのうち固まったりするのかな?まーその時になったら考えよう。




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