確認、そしてなんとなく
注意:視点変更
…………帰ってくれたか。
『天眼』と『魔眼』で文字が遠ざかって行くのを確認する。
距離が開いた所で『ウォーミル』と『水流操作』で生み出した氷の蛇と氷柱を解除する。
なんとなくでやってみたが案外出来るもんだな。
ただ水儒核がなかったので地面に広がっている血を利用したから、大きさや見た目とかがぐちゃぐちゃだ。
あと最後の方は焦った。
氷の蛇はバッキバキに壊される。身体は土で拘束される。そして危うく殺されかける。
とっさに身体から血を抜いて、前方百八十度に氷柱を伸ばしたからなんとかなったけど。
それでも諦めてくれなかったらもう打つ手はほとんどなかった。
そういえばなんで引いたんだ? 相手の方が有利に動けていたはずだけど。
すると『天眼』の端に人影が映る。
あれは……来る時に通った門の警備員たちか。
まあ、あれだけ騒ぎを起こせば来るか。ただそのお陰であいつらは逃げてくれた訳だ。
なら今のうちに回復を──って、そうだった。治癒核は今、家だ。
治療を優先にしたからまだ回収していなかった。
あー、じゃあゲートで取り寄せるか。
首を動かすのも無理なので舌でゲートリングを探す。
……あれ? ないな。確かに口の中に入れたはずだけど。
あ、もしかして舌も最初の一撃で痺れてて感覚がないとか? でもそれって状態異常にはならないのか?
考えるのは後にしよう。とりあえず『天眼』と『魔眼』で口の中を確認すればそれで良い。
「うぅあぁ」
その様子に思わず声が出る。音はちゃんと出なかったが。
舌や口内の肉が裂けて血が溜まっている。
それに吐しゃ物の残りと白い塊……げっ、これ歯か!
その破片が見える。そんな中にゲートリングの姿は見えない。
もしかして能力で歯みたいに壊れたか? それとも意図せず呑み込んだか?
だとしたら詰んでるな。この怪我どうするか……
『天眼』の範囲を戻し、警備員たちの場所を再度確認する。
まだ距離はあるけど十分もすれば着きそうだな。
手当してくれるかも不明だし、何よりこの出血だと十分も待っていられるか怪しい。
マジでどうするか……
「っ!」
ついに声が出なくなる。「あ!」という音さえ途中で詰まって出ない。
思い出した。まだ一つだけ残ってた。
腕は動かせないから地面に広がる血を『水流操作』で操る。
腰に着けていた宝物庫にその血を伸ばす。
服や宝物庫なんかは襲撃者の最初の能力で破損していない。あったのは人体や馬車、それと地面くらいか。
あー、そういえば観ていた感じ全員が能力持ちだったな。
土が動いたり、剣が赤、いや赫くなったり、槍が急に形を変えたり。
それに氷の蛇をバッキバキにしたのも能力だよな。多分。
あれ? 一人分足りない?
ま、良いか。それより目当ての物を宝物庫から取り出す。
血を凍らせて刃折れの剣を出す。
古竜の素材から作ってもらい、エルフの里で金髪女との戦闘で折れた剣。
これの柄の部分にはダンジョン攻略の記念として、五輪核ゴーレムの核をそれぞれ一つずつはめ込んでもらっている。
なんとなくでやったことだったけど、まさかこんな所で役に立つとは。
こういう『なんとなく』という感覚には昔から助かっていたから従ったのだが、それが功を成した訳だ。
あとは治療すれば、とりあえず命の危機は脱せられるはずだ。
欠片の大きさは飾り程度なので小さいが内臓の傷くらいは塞ぐことが出来るだろう。




