交代、そして硬さ
「それはすまんかった。だが、核が壊れてないのも事実だ。今一度あの魔獣を切って今度こそ核を壊せよ? 出来ないのならワシがもらう」
ウが謝罪と共にさらに毒を吐いてくる。おまけに念まで押してくる。
「……いや、そちらに譲ろう。貴様では核を切れないだろうからな」
「ほお……」
しかし彼の挑発に乗らず、逆に最後の言葉に便乗させてもらう事にする。
核がある位置を断定して切りに行って尚切れなかったのだ。
私に出来なかった事を他が出来るとは思えない。
「ならワシが頂こう。頭は任せたぞ。それくらいなら出来よう」
それだけ言うとウの気配が揺らぐ。恐らく魔獣に向かったのだろう。
相変わらず口の悪い女だ。
そう彼女への想いを抱きつつ、私も地を駆ける。
私達の動きに合わせて再度頭が突っ込んで来る。
「俺は左一つ」
「了解」
剣の間合いに入る少し前にシンが担当を選ぶ。
シンの話ではあの魔獣は最初よりも硬くなっているらしいが、破壊出来ない程ではないのは二人が証明している。
だから強めに深く斬り込めば良い。
右の短剣で一番右端にあるアイスネークの口から上顎に向けて切り上げる。さらに上から首を目がけて振り下ろす。
硬い......? そんな風には感じられなかったが、気のせいか?
手応えが先程と変わらない事に疑問を抱く。
それを確かめるために残る真ん中の頭。それの顎下からロングソードを刺す。
「!」
硬い。それもかなり。
刺す事は出来たが、明らかに刺し込む際の刃の入り易さが今までと違う。
利き手ではないのもあるだろうが、それを抜きにしても刺し入れるのに強めの力が必要となった。
剣を左に回して頭の右半分を削ぎ落とす。
やはり硬い。硬くなっている。
どういう事だ? 何故片方だけ硬くなっている。
体内から生えてきた所を見るに全て同じではないのか? それとも別の何か?
確かに一つ一つが別の意思を持っているように動いているが、それはヒュドラも同じ。
だがヒュドラが首によって硬さが違うとは聞いた事がない。
いや、ヒュドラに似ているからと言ってヒュドラと同じと考えるのは早計か。
......それによく考えれば硬かったのは真ん中。つまりは最初の頭。
後から生えてきた頭が柔らかいのは生やした元からある頭より身体が出来ていないから? いや、その理屈では再生時の説明がつかない。
再生したての場合元からある頭も柔らかい事になる。
既にシンやウが数回再生させている事から考えてそれもない。
となると真ん中に何かある? 例えば核とか。
......ないな。そもそもそんな場所にあるならあの頭は突っ込んで来るはずはない。
それに真ん中だけ徐々に硬くなっていくならあの二人が必ず気がつく。
その報告がないという事は無作為性である可能性が高い。
これだけ情報があればもう良いだろう。
後はウがアイスネークを始末して終わる。
恐らく能力を使うだろうからすぐに離れなくてはいけない。
ウは普段の任務は武器で行う。
素直に褒めるのは癪だがそれだけでも十分に任務を熟している。
我々は全員、どの武器でもある程度扱える。時には薬や魔道具も使うが。
しかしウはそれに加えて体術に優れている。
それこそ獣人を複数で相手しても対処可能な程に。
そんな彼女の能力は──
「バン・ボン」
衝撃の倍増。
凄まじい音と共に土が風に舞う。うるさい。
どう攻撃したかは見えないので分からないが眼下にある先程まで蛇の形をしていたアイスネークは、まるで上から大岩でも降ってきたかの様に潰れている。




