未知の魔獣、そして蘇り
ローブの中に隠していれば武器さえも姿を消せる。
それを全員が分かっているため相手に気取られる事なく殺せる。
人間離れした耐久ではあったが、次の一撃で確実に終わらせる。
確信を抱きながら剣の間合いまであと少しの所だった。
突然我々と子供の間に割って入るようにして地面から全身が赤く、身体が水で出来た蛇の魔獣が姿を現した。
さらにその魔獣が姿を現したかと思えば、地面より生える根本から徐々に上へその身体を水晶に覆い始める。
……否、よく見ると全身が赤黒い色で、光が反射して美しく見えていたが所々が歪な形になっており、艶や内側の紋様からして水晶というよりは氷の様な見た目だ。
人で八重歯に当たる部分に二本の長い牙を携え、爬虫類独特の目。
しかしその中に瞳の色、生物にある生の光は感じられない。
あんな魔獣がこの近くにいるという情報は入っていない。
その突然の襲来に、しかし常に標的以外も警戒している我々がこの程度で遅れを取る事などない。
未知の魔獣が真っ直ぐ我々、私に向けて突進して来るので、それを寸前の所で避け首を断つ。
するとすんなりとそれの首を刎ねる事が出来た。
ランクは黄色、甘く見積もっても緑と言った所か。
この程度の相手なんぞ問題にもならない。
乱入者によって多少私の位置は把握されただろうが、すぐに移動してしまえば問題はない。
が、そんなに甘くはなかった。
私が頭部を切断した魔獣は再度私が走り出すまでは動かずにいた。
だと言うのに動いたと同時に胴体は先程まで向いていた方向のまま、切断された根元の横から頭を生やし、横にズレた私に突っ込んで来る。
そんな一瞬にして蘇った魔獣の突進を身を捻って避けようとするが、完全に避け切る事が出来ず右脇腹に強い衝撃を受ける。
「ぐぅっ!」
声は最小限に抑える。
しかし突然の攻撃を無理な体勢で避けてしまったため、重心が背後へと傾く。
咄嗟に右腕で受け身を取り、傾れるようにそのまま二、三回地を転がって立ち上がる。
傷はないが鈍痛が続いている。
「大丈夫かっ?」
「問題ない。あの魔獣は私が正面から狩る。お前らは行け!」
右背後から仲間が心配して尋ねて来たが簡潔に返す。
我々同士でもローブに身を包めば姿は見えない。
しかしそれは事前の配置、日々の鍛錬による互いの間合いや動き方、そして歴戦の勘でおおよその場所は把握出来る。
今回の様な事態の場合は、とりあえずどこの範囲に自分が居るかを伝えておけば問題はない。
私の言葉を聞き入れた仲間がすぐに移動してくれたのを僅かな空気を切る音で感じる。
さて、頭を落としてダメなら次は細切れ、に……
未確認の魔獣の討伐方法を思案する中で、ある事が頭を過ぎる。
待て。何故、あの魔獣は私の位置を理解していた?
あの時の動きは確実に解っていた。最初の時も真正面に私が居る事を見据えて迫って来ていた。
そして動き出そうとする私に反応して再度攻撃をした。
魔獣の中には臭いや音で敵を探知する物もいる。
任務の中には獣人の始末もあるため臭いや音の対策もしている。
所詮は鼻や耳が良いだけなのだから、それ以上の物で潰せば良い。
しかし今回は全てが普通の人間であるためそちらの対策は準備していない。余計なリスクを増やすだけだからだ。
そしてあの魔獣も何かしらの探知能力を有しているから私の位置を正確に理解して突っ込んで来た。
要するに、視覚を封じてもあの魔獣には意味がない!
「気を──」
「全員その魔獣には近づくな! 感知されている!」
私が仲間達にその事を報せようとするよりも先にリーダーが注意を促す。
流石だ。
しかしそんなリーダーの言葉は無意味だった事を知る。
なんとその魔獣は全身から棘を生やし伸ばす様にして、我々全員にその頭を向けてくる。




