戦慄、そして作戦
注意:視点変更
我々は“ラダン様”寵愛を受けし暗殺者。
──不要な者を始末しラダン様の思い描く社会を拝見させて頂く者である。
我々はラダン様の忠実な僕。
──如何なる指令であれど遂行する者であり物である。
故に我々はこの任務を遂行せねばならない。
「なんなんだ、あの子供は……」
我々の視線の先には確かに胸を貫き、殺したはずの黒髪の子供が血を吐きながら立ち上がっている。
その光景に今まで多くの死線を乗り越えてきた我々が戦慄する。
齢五つ程の幼子。そんな子供は重体ながらも立っている。
今回の作戦では初めに仲間の一人である獣人が『ヴァブ・ション』を使い、馬車事一帯を破壊し他が標的を完全に始末する手筈。
この平野では奇襲をかけるのに不向きではあるが、一番狙い易いとも踏めた。
何故なら見渡した所で敵の姿が見えなければ油断する。
そのために我々はカレメローンの鱗を取り付けたローブで身を隠していたのだ。
しかし今回の標的は青年と聞いていたが乗っていたのは幼子。
それでも最優先が黒髪の青年であり、その後に同乗している騎警団──騎士が協力している警邏調査突入課──の始末が任務であったため止む無く実行。
後は撤収するはずだった。
だというのに確かに殺したはずの子供が生きており、剰え立ち上がったのだ。
そもそもの話『ヴァブ・ション』は声と共に指向性に揺れを生じさせる能力。
その揺れの威力は発した文字数に比例するが、最大で五文字。
それ以上を超えれば術者に大きな影響が出るが、今回の標的は手を抜けばこちらが危ない相手。
故に初手から最大出力で一気に畳みかけた。例え乗っていたのが全然別人だろうとやる事に変更はなかった。
『ヴァブ・ション』の揺れは正面が一番強く、次いで左右と頭上、そして背後。
その間にある物に揺れを与えるため地面は割れ、馬車も檻事壊れた。
真正面から受ければ人なんぞ馬同様に内臓も含め滅茶苦茶になる。
揺らされ、肉に押されて骨は折れ、肉は裂ける。
そんな状態になれば大抵の人間は死ぬ。
ましてやあの子供に関しては心臓を貫いている。
では何故死んでいない?
あれが起き上がる際の咆哮はこの世の者とは思えない悍ましさがあった。
故に我々は戦慄した。今まで敵味方の中で死なない人間に出会った事がないからだ。
あれは本当に人間なのか?
「死なない人間が居るものか! 敵は瀕死だ! 全員でかかれっ!」
戦々恐々としていると彼らにこの部隊のリーダーが声を上げる。
そんな彼の言葉に失いかけていた戦意を全員が取り戻す。
そうだ。死なない人間なんていない。何かの能力で辛うじて生きているだけだ!
それに我々の姿は見えない。
であるなら勝機は依然変わらず我らにある!
意気込み強く、立ち上がってから動こうとしない、否動けないでいる子供に向けて走り出す。




