せっかち、そして女性陣
洗い終えたゲートリングを口に入れ、舌の下にでも隠しておく。
ただ手が濡れていると少し怪しまれそうだな。
何故なら、ここに手洗いの場所はない。
外にはあるがその外には見張りが立っているので、この場で手が濡れているのはつまりそういうことになってしまう。
手にかかって出てくるってどんだけ下手なんだ、と思われるのは心外なのでタオルで拭いてから出る。
「済んだな、行くぞ」
せっかちだな。手くらい洗わせてから行かせろよ。
彼の態度に少しだけムッとしつつも、縄を引っ張られるので仕方なく従う。
それにしても甲冑男から少し離れた位置で待機していた警備員がずっと笑顔を浮かべていて逆にちょっと怖い。
なんだ、実はこの甲冑の連中って憧れを抱く様な組織の者なのか?
「戻ったぞ。申告は終わったか?」
甲冑男は馬車の元まで戻ると檻を開けながら進捗の確認をする。
「今し方終えた所です。ですけどキリサキならともかく、こんな子供を街路ではない荒れている道で連れて行くのですか? 大分揺れますよ」
すると甲冑男の質問に答えたのは、一緒に乗ってはいたがずっと黙っていた一人で御者の方側に座っていたやつだ。
こっちも女だったのか。
もう一人の方は身体が大きいのと時折咳払いをしていたので男だと分かっていたのだが。
「元からそういう手筈だっただろう......変更するとなるとかなり時間がかかる。それにキリサキの所にいた餓鬼だ。そんなことを気にする必要はない」
男がキッパリっと言ってのける。
さらに再度顎で入る様に促してくる。
酷いな、おい! 俺の所にいた云々を抜きにして、ちゃんと子供の扱いをしろよ。子供には。
少しだけ強めに心の中で突っ込みつつ檻の中に入る。
「......なあ、せめて何か下に敷く物は用意出来ないか? 子供にはこの馬車は辛いだろ」
すると先ほどから声をかけていた女が少しだけ声のトーンが落ちた状態で外の男に訴える。
口調はあれだが、心配してくれている......んだよな?
相手が相手なだけに素直に受け取れない。
「そうですよ! 私だって痛いんですから、子供には耐えられないと思います!」
もう一人の女は私情が挟まったが一応は俺の心配をしてくれている様だ。
「お前らなぁ......分かった。何かないか訊いてみよう」
「「ありがとうございます!」」
そんな二人の訴えに男が折れる。
そしてその瞬間彼女らは声を揃えて礼を述べる。
しばらくの間男は立ち尽くした後、早足で警備員へ声をかけに行く。
それにしても馬車にいる大男は何もしゃべらなかったし、意見も求められなかったな。
無口なタイプなのだろうか?
敵かもしれないが、少しだけ気になり視線を向けるがなんの反応も示さない。




