出発、そしてゲートリング
その檻となっている馬車に乗ると出入り口が閉じられる。さらに外側から鍵がかけられる。
そして間もなく馬車が動き始める。
まさか皆と合流することなく連れ出されるとは。
「揺れて痛いだろうがしばらく我慢しろよ」
すると同じく檻の中にいる甲冑男、ではなく甲冑女が荒い口調ではあるが配慮してくる。
顔が甲冑で隠れているので全員男だと思っていたが、女性も混ざっていたらしい。
馬車は何度か乗っているが今までより揺れを感じる。
身体が小さいから自重が軽く、揺れを感じやすいのだろう。
ただこのくらいなら船に比べれば大丈夫だろう。多分。
それより皆がどうなっているかの方が心配だ。
「キリサキの仲間が居場所を吐かなかったら、この事件ってどうなるんだ?」
すると外からそんな話声が聴こえてくる。
『天眼』で外の様子を観れば、どうやら馬車を囲む様にして分かれている連中のうち右側の二名が談笑している。
「そりゃあ指名手配されるだろうから、そうなったら逃げれっこないだろ。港から抜け出そうとすれば分かるし、北と南にしか港はないからそこを塞いじまえば出られねえよ。港まで馬を走らせても数日はかかるしな」
「やっぱそうなるか。銀ランクって言っても所詮平民の冒険者だしな」
「そうそう。だから無駄な時間かけたくないから、とっとと出て来る方が良いんだよ」
などと言いたい放題だ。
しかしそうなるのは予想出来ていた。ただその程度ならゲートでなんとかすれば良い。
そんなことよりも皆だ。『千里眼』で全員の様子を窺う。
「貴様ら、無駄口を叩いとる場合かっ!」
彼のことを無視しようとしたら反対側にいる甲冑の男が声を張り上げて怒鳴る。
うん。気にしなくて正解そうだ。
意識を戻すと先ほどユキナの所が動き始めていたが、その次はニーナの所、その次がポールさんたち従業員を一纏めにしてっと、それぞれをそれぞれの馬車に乗せられている。
そして時間をズラしてそれぞれを出発させる。
ただし医務室にいたサナ、キリ、リリー、そしてメルマンさんはまだ家にいる。
一応数人の甲冑姿の者が見張りとして外と中にいるが、今の所危害を加える様子はない。
約束は守ってもらえそうで少し安心した。
ただユキナたちと合流出来ると思っていたがこの様子だと堅牢署まで、下手したら拘留中もそれは叶わないかもしれない。
そうなりそうならやっぱりゲートリングだけでも隠しておくか。
無難に口の中で良いか。
体内に隠せる能力とかあれば便利なんだけど、そう都合良く手に入らないよな。
それと治癒核も一つは持っておきたいが、欠片だから怪我をする恐れがある。
そうなると何かで包む必要が……いや、ゲートリングが無事ならいつでも取り寄せられる。
ならゲートリングだけ隠せば良いか。
そんな風に考えていると馬車が停止する。
急停止ではないので何かトラブルが発生した訳ではなさそうだ。
「休憩だな。催しているなら早く言ってくれ。ここからしばらくは休憩なしだからな」
先ほど配慮してきた女が声をかけてくる。
出発してまだ三十分も経っていないし。
しかしそれは一度王都から出て外回りで堅牢署に向かっているからであり、その出る手配をしている間に休憩という訳。
なるほど。こっちからだと街中で逃げられるや逃げていると思われている俺が襲って来る可能性を下げられる。
そして次と言うのはこの調子から考えて堅牢署がある方の門前だろう。
隠すならそのどちらかにやるしかないな。さらに言うなら彼らから離れた場所で。




