指示、そして断る
女に後を任されたブライアンと呼ばれた男は、女が去ってから少しして周りの連中を見渡しながら口を開く。
「突入班はこの子を連れて先に行っててくれ。俺は他の部隊の様子を見てくる」
彼は彼が何を言うのか待っている部下に向けて指示を投げる。
そして俺の方へと向け直るとこちらへ手を伸ばして来る。
何をされるか分からないのでそれを途中で払い退ける。するとブライアンはその払われた手を見つめる。
しばらくの間掌を裏返したり戻したりを繰り返す。
一頻り確認し何に納得したのか首を縦に振ると、再び俺に視線を向ける。
「坊主、首長は怖ぇけど良い奴なんだ。嫌ってやんなよ」
優しく言い聞かせる様にして言うと、彼は「さ、行け!」と命令する。
それに従って甲冑の半分以上が動き始める。
「ほら、行くぞ。歩け」
そんな中一人の甲冑の男が立ち止まっている俺を急かす。
……ここで抗っても無駄か。さっきの女がいた時にもう少し話を訊けていれば良かったが、今後悔しても遅いか。
『千里眼』で全員が無事なのは確認出来ている。
ただ行く前に……
「一階の医務室に怪我人がいるんだ。彼女らと医師くらいは連れて行くのを止めてくれ。頼む」
命令を下して、外へ行くように言われた連中が部屋から出て行くのを見守っているブライアンに向けて懇願する。
聞き入れてくれる保障なんて何一つとしてない。
なんなら敵かもしれない相手にこんなことを言うのはバカだとさえ思える。
しかし怪我人、特にキリとリリーは治るかも不明な状態だ。
そんな二人を連れ出すのは危険過ぎる。
例え今から連れて行かれる場所に診療所があったとしても馬車は揺れる。
そこで怪我人が安静に出来るはずがない。
だから彼女らがここで安らげている間に間違いを説明して返してもらい、すぐにでもダンジョンとエルフの里へ行く。
「んー……そいつぁちょいと難しいな。証拠を隠される可能性があるし、何よりまだ主犯が見つかっとらんからそいつらだけでも連れ出されるっちゅう事だってあり得るからな。せやから坊主には悪いけど、諦めてくれ」
彼は片手で謝罪の意を示しながら俺の望みを断る。
さすがに都合良く承諾はされないか。
それに彼の言っていることは正しいし、例え先ほどの女性がいたとしても同じ理由で断られただろう。
「ま、大事に至らないよう丁重に連行するようには言うておくけん、坊主はそない心配すんな。男前が台なしやで」
そんな変なフォローをかけられるほど、表情を分かりやすく表に出してはいないはずだが。
「もう良いだろ。行くぞ」
ブライアンの返答に釈然としないでいると再度同じ男に急かされる。
とりあえず今は指示に従いつつ神様に話を訊くことにするか。あいつならきっと何か知っているだろうし。
そう考え、歩き出す。




