寝る前、そして侵入者
さて。入浴と食事を終えれば、後は寝るだけだ。
明日の支度は……大体は宝物庫に揃っているので夜更かししてまで用意しなくても大丈夫か。
眠気も強いので部屋に戻るなり、そそくさと床に就く。
そして目を閉じて眠りに落ちるのを待つ。
「…………」
うん。何故か寝つけない。
この直前まで眠かったのに横になって「いざ寝るぞ」ってなったら眠れないのはなんなんだ。
「はぁ……まぁ、そのうち寝つくだろう」
そんな楽観的考えで目をつむりながら寝落ちを待つ。
しかしサナが言ったことはもっともだ。優男の時もキリが怒っているっと言っていた。
それにしてもキリやサナがあそこまで怒りを露わにするとは……
二人共、いやユキナやニーナだってそうだろう。
仲間のピンチに奮い立たないような子たちじゃない。そう分かっていたはずなのに、はっきりと言われるまで配慮が出来なかった。
ダンジョンとエルフの里でリリーとキリが助かってくれると良いが……
問題はエルフの方だ。
サナの想いを無下にする訳ではないが、さすがに一人で向かわせるのは心配だ。
かと言ってユキナを同行させれば余計に何をして来るか分からない。
ニーナは……普段は引っ込み思案ではあるがやる時は自分から動く子だ。
同行は彼女の意思で考えよう。ユキナも……行くと言うなら止めるのは無礼だ。
うーん、本当であれば彼女たちと同行してくれるような人を着けたいが、生憎頼れる人がいない。
「はは、こっちでもまともな友達が出来ないとは」
地球では遊ぶ友達は出来なかった。放課後はバイト漬けだったから、学校で話す人しかいなかったもんな。
あ、でも皆がいるからこっちの方がずっと良いか。
サナたちの顔を思い浮かべ思わず笑みを浮かべる。
「って、早く寝ないと」
しかしすぐにその笑みを引っ込め、思考を無にする。
すると今度はすぐに眠りに落ちることが出来た。
翌日、騒がしい音と多くの人の気配で目が覚める。
窓から外の様子を窺うと甲冑姿の人が敷地の中に入り込んでいる。
「なんだあいつら!」
すぐに『千里眼』で家の中を見る。
すると先ほど見た甲冑姿の者たちが家の中まで入っており、何組かに別れて行動している。
『千里眼』でそれぞれの部屋の様子を確認する。
医務室、食堂、庭、ニーナとユキナの部屋。
その全てに甲冑姿の連中が突入している。
またあの貴族の男か? 騎士団隊長の。どっちにしろ反撃されても良いんだよな。
人の家に勝手に入って来たのだから。
とりあえず一番最初に医務室へ向かおうとした所で俺の部屋の扉が開け放たれる。
「大人しくしろっ!」
そして二十名の侵入者が部屋の中へと入って来る。
武器を構え、二人の侵入者は俺に、他の者は辺りに視線をやっている。
何かを探している?
「犯人は捕まったか?」
するとさらに部屋に一人の女が入って来る。
桃色の髪を後ろで巻いている二十代ほどでタイトなスーツに似た格好をしている。
スラリとした体形だが凹凸はしっかりしている。
印象的なのは左胸に翼を広げた白鳥の前に手持ち琴が刺繍がされている。
あれはベガの国章か。ということは国の人間か?
「いえ、それが部屋に中にいる様子はなく。恐らく何処かに隠れたか逃げたかと」
甲冑連中のうちの一人が女の問いに答える。
「お前らは誰だ? 何故こんな真似をする」
反撃はせず、誰何する。
国の人間を相手に無暗に手を出す訳にはいかない。
少なくとも目的を聞くまでは。
「……なんだその子供は」
鋭い目つきでこちらを見下ろしてくる。
「部屋の中にいたのはこの子供だけでした」
「情報の誤りか?」
「いえ。他の部屋は情報通りでしたので、キリサキが逃げ出したのかと」
俺の質問を無視して状況の報告をし合う二人。
その様子に少しイラつきを覚える。
「おい子供。この部屋にいたアズマ・キリサキは何処へ行った? 正直に言えばこちらは何もしない」
屈んで目線を合わせながら、しかし口調と内容のせいで脅しの言葉で問うてくる。
歳相応の子だったら泣いていそうだ。
「こっちの質問が先だ。お前らは誰で、何故俺らを捕えようとしている」
こっちも皆に何かが起こっては困るので目的を知りたい。
だから反発する。
その態度に女が少しだけ眉根を寄せる。
「……言って解るかどうかは置いておきます。アズマ・キリサキは堅牢署に投獄されていたボアアガロンのボス“ラグナロ”の脱獄の主犯として連行する。そのために来ました」
「…………はあぁーっ‼︎⁉︎」
女が目的を告げるが、その言葉に驚きの声を上げる。
【十七章 リリーの真偽】完。
次【十八章 堅牢署からの脱獄者】。




