サナの怒り、そして想い
「アズマ、まずは私の目を見て」
サナに促され、恐る恐る顔を上げる。
告白してから今まで見れていなかった彼女の顔、そこには笑顔があった。
メルマンさんが浮かべてくれた様な優しい、柔らかい……そんな笑みに似ているがどこか違う。
もっと安心する。そんな笑みを浮かべている。
「あなたが心配していることは分かったわ。それで後悔して焦っちゃう気持ちがあるのも大体は想像がついてる」
さっきの「冷静になりなさい」の時とは違いゆっくりと優しい声音。
「でも一人でなんとかしようとしないで。あなた自身の誤りでリリーが大変な目に遭っている、だなんて思わないで」
少しだけ語気が強くなる。
怒っている様に感じられるが、責められている感じはしない。注意に近い。
「ニーナはすぐに応急処置してたけど、私は……何も出来なかった。そしてあなた一人に全部を任せた。私はもちろん、ニーナもキリも、ユキナも……もちろんリリーだって、あなたならなんとかしてくれるって思ってた」
今度は声音が弱くなる。
悲しそうな、悔しそうな表情を浮かべる。
「私はどうすれば良いのか分からなくて、どうしようもない状態で止まっていた。なのにあなたは、どうにかしようと動いた。自分の方が大変なくせに、リリーを助けるために動いてくれた」
しかしすぐにその表情を消し去り、力強くこちらを見てくる。
「そんなあなたが失敗したって言って自分を責めないで。自分一人で、その問題をどうにかしようとして悩んで、苦しんで。あなたのことだから全部自分が悪いとか思ったんでしょ?」
「うっ」
彼女に見破られて声が漏れてしまう。
その様を見て「やっぱり」とサナは呆れている。
そしてより一層語気が強くなり、彼女は続ける。
「ふざけないでっ! 私たちは仲間なの! なのになんであなた一人で苦しもうとしてるの!」
声を荒げて叫ぶ。
そんな彼女の顔は本気で怒っている。
しかし憎しみの様な感覚は感じられない。この感じ、どこかで……
「役に立つか分からないけど、私にも頼りなさいよ! 一人でどうにかしようとしないでっ!」
すると急にサナがベッドから降りて、こちらに歩み寄って来る。
しかし彼女の足取りはフラついている。
いくら治癒核で治療された後とはいえ、彼女は怪我人だ。
まだ無茶をして良い状態ではない。
だと言うのにサナはゆっくりこちらに来て、しゃがむ。
俺よりやや高い目線。普段は逆なだけに違和感がある。
そんな思いを抱いていると、彼女は俺を優しく包み込んでくれる。
「だから、一人で苦しまないで。お願いだから……」
嗚咽交じりに、しかし力強い意志を宿して溢す言葉。
そんな彼女にどう対応すれば良いのか分からず固まってしまう。
するとサナの甘くふんわりとした香りが鼻を燻る。そして彼女から伝わってくる体温。
自然と意識がそちらに向く。
暖かく、優しい想い。
そんな想いに心から安心出来る。
…………ああ、思い出した。昔、母さんに心配をかけた時もこうしてもらったな。
確か父親が亡くなってしばらくして片親ってことでイジメられたのをずっと黙ってて、それでイジメがエスカレートして……なんだっけ?
それで何かあったはずなんだけど、そこら辺はどうでも良いからか忘れたな。
「ごめんな……」
さっきまで頭が一杯だったのに、どこかへ行っちゃったよ。
そんなことより今は悲しませてしまったサナが先だ。




