話、そして秘薬
俺の突然の感謝に全員が戸惑っている。
思ったより声が出てしまった。
「なんでもない、なんでもない。リリーの容態は分かった。ただそこまで予想外の症状が起こってるのは心配だな......」
逸らしてしまった話を戻す。
注入された毒の症状とは異なる症状が出ていてそれを調べている最中。
『魔眼』で見たから毒自体は間違っていないはず。もし何かが起こっているとしたら俺の行動によるもの。
「秘薬とか魔道具とかで一瞬で治せないものか」
異世界なんだし病気を一瞬で治す薬とかありそうなものだが、聞いた記憶はない。
でも治癒核なんていうデタラメな魔道具があるのだからあってもおかしくない。
「どんな病も治す秘薬、ならあるかもしれません」
俺の適当な言葉にメルマンさんが反応する。
「えっ! あるの⁉」
その意外な発言に隣で怪我人が寝ているのに、大声を上げてしまう。
「……私たち医者の間で噂程度でささやかれていたのですが、次第に実は存在するのではないか、と。議論まで起こった事もあります」
彼がさらに続ける。
「それはどこにあるんだっ?」
声は抑えつつも喰い気味に尋ねる。
もしそれを手に入れればすぐにでもリリーを助けられる。そうなればエルフの所にはいかなくて済む。
まあ、日を改めて行くかもしれないが。
それでもしばらくしてからなら、多少は相手の溜飲も下がっているだろう。
「あ、いえ。先程も申し上げましたが、実在するかも分かっていない状態でして……」
「いや、噂でも良い。あるのかもしれないなら、知っておきたい」
場所にもよるが取りに行けそうなら行こう。
「分かりました。ですが推測ですので、保証もありません」
メルマンさんはそう前置きを置いてから真剣な表情で続ける。
「シリシセス国にあるダンジョンです」
「っ⁉」
彼の言葉に再び驚きの声を上げそうになったが、今回はギリギリの所で留まった。
そして一旦落ち着いてから話始める。
「ダンジョンって、この国以外にもあるのか?」
「はい。現在確認されているだけで三つ。まずこの国のダンジョン。次にシリシセス国。そしてカシオピア王国とアンドロメア皇国の間に一つです」
「カシオピア王国とアンドロメア皇国って今戦争になりかけているっていう、あの?」
「そうです。ダンジョンがかの国同士の丁度真ん中にあるため、それを手に入れる、基領土を奪うために戦争を度々起こしていると言われています」
なるほど、戦争の理由は領土の略奪。戦争らしい理由だな。
そしてそんな状態だから目指すのはシリシセス国のダンジョンなのか。
「ダンジョン……ベガのダンジョンは攻略に十五日くらいかかったな」
今のレベルならもっと早く攻略出来るだろうけど、さすがに三日、四日程度でクリア出来るか?
なんなら一日もかけずに帰れるのが理想だけど。
「その話は私がこちらで勤めさせて頂く前に街で伺いましたが、まさかそんな短期間での攻略だったのですね……」
と昔を振り返っているとメルマンさんが驚きと呆れた様子で乾いた笑みを浮かべている。




